自分とは関係なしに揺れる茂み。

風が揺らしているのかと思ったけど、それはもっと干渉的な揺れ方をしていて。




「アン、トーニョ…?」




早る心臓に、なけなしの期待を込めて名前を呼ぶ。

その声が震えていることに気が付いて、余計に動悸が激しくなった。




「な、なぁ、お前なんだろ?そんなことして驚かそうなんて、そ、そうはいかないんだぞちくしょーッ!」




最後の方は、半場ヤケになって叫んだ。


怖かった。

だって俺は自分を守る術を何も知らない、ただの弱い子供だから。

誰かに守ってもらわないと簡単に支配されてしまうような、非力な国だから。


心臓に圧迫された肺が苦しくて、呼吸するのが精一杯の俺を哀れんだのか。

揺れていた茂みが、急に静かになる。




「……?」




気のせい、だったのか?

恐怖心に煽られて、あるはずのない出来事を作り上げてしまったのだろうか。


不安が遠退いたことで、少しだけ気が緩む。

緊迫した空気を拭い去ろうと、息を深く吐いたとき。
その茂みから、のそりと黒い影が現れた。




「…っ、!?」




吐いた息が、そのまま止まる。

見開いた瞳が映したのは、低く喉を鳴らしながら此方を睨み付ける、一匹の狼だった。







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