「へぇ、菊君もなかなかの詩人だね」

「え、どういうことなん?」




クッキーを摘みながら話を聞いていたと思ったら、ニヤリと笑ったフランが、そんなことを言ってきた。

俺は笑った理由が知りたかったのに、何で詩人?




「菊君は最初何て言った?」

「月が綺麗ですね」

「それ、英語で言うところの"I love you"」

「へー、そうなん‥て、えッ!?」




びっくりし過ぎて危うく持ったティーカップを落とすところだった。

そんな俺を、フランは鼻くそみたいなニヤニヤ顔で眺めている。




「昔の小説家だか先生が、そう訳したんじゃなかったっけ?」

「何でそんなこと知ってんねん!?」

「だってお兄さん、愛の国だし」




誇らしげに言うフランの横顔に、グーパンチを入れてやりたい衝動に駆られる。

いや、違う。
そんなことを考えてる場合じゃなかった。


だって菊が、俺のことを‥好き?




「あ、」




そうか。
それであの時、笑ったんだ。




‥ヤバい。
顔が、熱い。




意図が分からず、アホ面で月を見上げた俺。

思い出すだけで、今すぐ穴を掘って潜り込みたいくらい顔が熱くなって。

トマトみたいに真っ赤な顔をした自分を想像すると、心臓が爆発しそうになる。




─フランの野郎も、そんな面でこっち、見んなや。




せめてもの抵抗で、ソファーの端に置いてあったクッションに顔を埋める。

そんな事をしたって、きっと耳まで真っ赤だから意味がないのかもしれないけど。





『月が綺麗ですね』





そう言って俺に笑いかける菊を思い出したら。

恥ずかしすぎて、死んでもいいと思ってしまった。






†end

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