艶の赤




初めて出会ったのは戦場で。


雪の中、鮮血に染まりながら佇む姿が。

とても美しいと思ったんだ。




「菊は、いつになったら僕の所に来てくれるの?」



縁側に座り、出されたお茶を啜りながら菊を見れば。

小さなため息を1つして。
菊が僕の方を見返す。




「何度も申し上げているように、私は貴方の所へは参りません」




綺麗な黒色の瞳が僕を睨み付ける。

何でも映し出すその瞳には、僕の笑った顔が映っていた。




「何で?悪くしないよ?」

「そう云う問題ではありません」




ふるふると菊が頭を振れば、太陽の光に反射して、黒髪がキラキラと光る。

僕は、菊の持つ全ての黒色が好きだった。




「いい条件だと思うんだけどなぁ」

「それは貴方にとって、でしょう」




少し色の入った白い肌に指を滑らせる。


手、首筋、頬。


どこに触れても何も言わない菊がつまらなくて。

そのままうっすらと色付いた唇を親指で撫でてみる。


柔らかい唇。


その唇に。
円を描く黒い瞳に。

吸い込まれるように口付けすれば。




「──ッ!」




突然走る、鋭い痛み。


反射で顔を離して見れば。

唇についた血を、指で拭って舐めとる菊。


その怖いほど美しい姿に、僕は背筋を震わせた。




──やっぱり、菊には赤が一番似合う。




思い出すのはあの日の情景。


その瞳に赤を映して、血にまみれながらも凛と佇む姿。

目が合えば。
それだけで殺されてしまうような殺気。




「綺麗だ…」




ぽつり。

呟いた言葉はあの日と同じで。



笑いもせず。
ただ見つめる赤い瞳に。

また、逃れられないのだと。
頬を緩ませた。





†end

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