レンマ




『好きです』



その一言が言えなくて。

僕はただ。
幼稚な独占欲に縋り付く。






「おい、そこの愚民。音無さんから離れたまえ」

「んだと!?誰が愚民だ!」

「あーハイハイ。今日も仲が宜しいことで」



ピーピーと騒ぐ二人の間で
耳を塞ぎながら。

音無さんは呆れたように
溜め息をつく。


こいつと仲が良いなんて
勘違いされたくなくて。

僕は音無さんに言い寄った。



「僕が認めているのは音無さんだけです。こんなトイレットペーパーなんかと仲良くなった覚えはありません!」

「お前まだそのネタ引っ張るか!」

「止めんかっ」



僕を殴ろうとした日向を
引き離しながら。

音無さんが僕の方を見る。



眉間に刻まれた皺。


その顔は怒っているというよりも。

笑った口元から。
困った顔だというのが分かる。



「あまり日向を虐めるな。いいな、直井」



そう言って。

頭を軽く叩く様は、
まるでお兄ちゃんで。


まったく相手にされてない事に
不満を抱きつつも。

叩かれた頭を撫でる。


勿論表情には
出さなかったが。

少し、嬉しかった。




「…子供扱いしないで下さい」

「そうやって日向に突っかかる所は、十分子供だと思うけどな」




はは、と笑いながら。

仲直りにジュースでも
買いに行こうと。

くるりと体を反転させる。


僕は慌てて付いて行って。
音無さんの少し後ろに並んだ。



横目でちらりと盗み見れば。
そこには優しい表情。


反対側には愚かな
愚民が居たけれど。

そんなもの、
僕の視界には入らない。




「音無さん」

「ん?」

「早くその洗濯バサミを逝かせてやりましょう」

「あぁッ!?」


「言ったそばから…」





これは幼稚な独占欲。

貴方を盗られたくない。
僕の気持ち。



『好きです』と。

伝えられない僕のジレンマ。





†end

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