したのは君の涙




「戦争なんて、所詮人のエゴでしかない」



誰よりも何よりも
戦争が嫌いな貴方は。

そう吐き捨てて。
戦場へと足を踏み入れた。



私は其んな貴方を
見送る事しか出来なくて。

助ける事は出来なくて。


ただ無事に帰ってきて下さいと。

小さく頭を下げる事しか
出来なかった。





「よう、菊。帰って来たぜ」



夜も更けた頃に扉が叩かれ。
誰かと思い出てみれば。

其処には血にまみれた
貴方の姿。


肩で息をして、
今にも倒れそうな其の姿に。

私は声を飲み込んだ。



直ぐに部屋に上げ。

水を渡して濡れたタオルを
取りに行こうと立ち上がると。


着物の裾を、
か細い力で引っ張られる。



「行かないでくれ…」



閉じそうな瞼を
懸命に持ち上げて。

振り絞るように出される言葉。


早く治療をして
あげたかったけど。

その姿が余りにも必死で。


私は一つ頷いて。
貴方の傍に膝を突いた。



「ありが、と…」



安心したのか。
そのまま瞼を閉じる貴方。


一瞬嫌な予感が過ぎったが。

呼吸と共に上下する
腹部を見て。

ホッと胸を撫で下ろす。



寝てしまった貴方の顔には
無数の傷が出来ていて。

誰のものかも分からない血が。
体を赤黒く染めていた。




「…痛かったでしょうね」



先頭に立って指揮を
取らなければならない貴方は。

逃げる事も出来なくて。




「…辛かったでしょうね」



次々と倒れる民を
視界に捉えながら。

引き返す事も出来なくて。



「戦争なんて…」



視界が歪む。
それ以上は何も云えない。

云ったら貴方を否定する事に
なりそうだったから。



零した涙は、
泣けない貴方のせめてもの慰め。

漏れた嗚咽は、
痛いと云えない貴方の代わり。




「せめて今は、ゆっくり休んで下さい」




血で固まった髪を
解すように。

額に掛かった前髪を
そっと指先で撫で上げた。





†end

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