の笑みは救済か暗澹か




「やぁ、耀」



ノックされた扉を開ければ。
其処には一人の見知った顔が。


そいつは白色のマフラーを
ふわりと揺らして。

好青年のような笑顔を浮かべる。




「…我の家に何の用あるか。イヴァン」




その青年の表情とは裏腹に。
敢えて仏頂面を作り出す。


初対面の者なら
騙されるかもしれないが。

我は知っている。

その笑顔の裏には
ドス黒いものがあることを。



「そんな邪険にしなくてもいいじゃない」

「我等を狙っているくせに。よく言う」


「我等って。君、もう独りだろう?」



その言葉に。

奥へと歩き出そうとした
足が思わず止まる。





「菊君に、裏切られたんだって?」





何時の間にか
近付いてきた足音と。

耳元で囁かれるその言葉。



それは一番聞きたくない
現実だった。

一番聞かれたくない
真実だった。


そして何よりも誰よりも。

この男にだけは、
知られたくなかったのに。





「可哀想にね。菊君をあそこまで育てたのは君なのに」





後ろから抱き締められて、
背筋がぞわりと震える。


耳元には白い青年の
黒い笑み。


無邪気の裏にある。

冷徹で残酷な感情が
背中を包む。




「…我を馬鹿にする為に、わざわざ此処まで来たあるか?」




怖かった。

このまま自分が
取り込まれてしまいそうで。




「違うよ。誘いに来たんだ」




だから。

そう言われた時に
逃げる事が出来なかった。


まるで蛇に睨まれた
蛙のように。

イヴァンの腕の中で、
必死に震えを抑える事しか
出来なかった。





「こっちにおいでよ、耀」





それは悪魔の囁き。


苦い実ではなく
甘い実で。

体罰ではなく
快楽で。


妖艶に相手を手招いて。

手を差し出すのを
笑みを浮かべて待っている。





「‥‥分かった」





それなら。

我はあえてそれに縋ろう。




回された腕には手も触れず。

たった一言。
それだけで世界が変わる。





「もっと抵抗するかと思った」

「どうせ逃げられないある」

「賢いね」

「黙るよろし」





ただその世界は暗黒で。

ただその世界は残酷で。



目を開けても暗闇なら。
何処も同じだと思ったんだ。





†end

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