「お前さんは猫みたいな奴じゃのぅ」





細くて長い指が頬に触れる。



テニスコートの端っこ。
目立たないベンチ。

コートの中では
白熱した試合が繰り広げられている。





「そう?」




否定でも肯定でもない。
曖昧な返事で流す。


聞き慣れた言葉ほど
つまらないものはない。





「なんだったら、あんただけの猫になってあげようか?」




猫のように笑って
その指に甘噛みをする。


そんな気。
全然無いけれど。






交差する視線。

感情を読ませないその瞳が
酷く美しく思えた。





「その台詞、わしで何回目じゃ?」

「…さぁ?」




少し間をおいて
三日月型に笑ってみせた。






「…面白い」





綺麗な形をした唇が
綺麗に歪む。





「爪を立てる猫ほど手懐け概があるというもんじゃ」

「爪なんて立てないよ」

「どうだかな」





指先で喉元を下から撫で上げられ、思わず肩が揺れる。


頸、弱いんだよね。







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