執事様のお嬢様
【跡部景吾】
執事の朝は忙しい。
まず、主人が起きるよりも早く朝食の準備を済ませておくのは勿論の事。
起きたあとのベッドのシーツ替え、部屋の掃除、整理整頓。
その後には屋敷全体の掃除や洗濯、その他諸々の雑務をこなさなければならない。
"心の清らかさは掃除から"
そう教育されてきた執事達は、今日も寸分の狂いもなく自分の責務を果たしていく。
「アーン?お前、まだそこ汚れてるぞ。目ぇ見えてんのか」
まるで姑のようなお叱りを受けつつ、こまねずみの様に、しかし優美に動き回る執事達。
怒涛の声は恐らく跡部だろう。
執事達の取り纏め役の跡部は、今日も優雅にソファーに凭れ掛かり、周りに指示を飛ばしている。
手にはティファニーのティーカップ。
そこに並々と紅茶を注ぎ、クッキーを摘まみながら香りを楽しんでいる。
楽しんでいる。
楽しんで…
「って、あんたも仕事しなさいよ!?」
隣で読書をしていた私が立ち上がり、指を差してツッコミを入れる。
ツッコミを入れられた当の本人は、カップを持ったまま平然としていた。
余りにも堂々としていたものだから、普通にソファーを半分譲って読書に興じてしまったではないか。
主人の威厳が失われかけた事にショックを受けていると。
跡部がティーカップを優雅に置いて、その手でこれまた優雅に前髪を掻き上げた。
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