執事様のお嬢様
【樺地&鳳】
ダイニングルームの扉を開けると。そこにあったのは壁だった。
「…お早う御座います‥なまえお嬢様‥」
頭上から聞こえてきた声に、一瞬壁が喋ったのかと思ったら。
見上げたその先、無表情な顔をした料理長──樺地が居た。
「‥おはよう、樺地」
無表情なのはいつもの事なので。そこは気にせず挨拶をする。
扉の前に立っていたのも、自分を待っていたからだったのだろう。
私を一瞥すると、ゆっくりとした動作でキッチンへと戻っていった。
「今日は少し遅かったですね。何かあったんですか?」
椅子を座る動作に合わせて移動させながら、長太郎がにこやかに聞いてきた。
「まぁ、色々あってね」
「不二さんですか?」
「…何で知ってるのよ」
この笑顔‥
油断ならないわね。
グラスに水が注がれるのを眺めながら、それ以上は何も言わない執事をちら見した。
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