やみの匂い





雨上がり。


まだ濡れている
コンクリートの上を。

足跡が残らないように歩く。


湿った独特の匂いを
鼻に感じながら歩いていると。

後ろから自転車の
走る音が聞こえてくる。


邪魔にならないよう端に寄って
それを避けようとすれば。



「なまえ!」



自分を呼ぶ声。


振り返れば。
頭上に広げた手のひら。



「いったぁ…ッ」



それは見事に
私の頭を掠め。

少しの痛みと共に
走り去る。



「ちょ、赤也ァ!」



不平を込めて
その手の主の名を呼べば。

楽しそうな笑い声。



「ボーっと歩いてると轢いちまうぞ〜」



そう言って後ろを向いて
手を振れば。

彼の目の前には
水溜まり。



「うわっ冷て!」



気付かずにそのまま
突っ込んで。

水しぶきを浴びる。



その鈍感さに笑って。
バーカ、と呟く。



遠ざかる彼の後には
水溜まりから伸びる二本の線。


その車輪の跡を眺めながら。

まだ揺れている水溜まりを
避けて歩く。



鼻には湿った
コンクリートの匂いと。

少しだけ彼の匂い。



その匂いを感じながら。
線の上を辿って歩く。



今度は足跡を残すように。

君の隣へ行けるように。





静かに流れる風に混じって。

少しだけ、
春の匂いがした。




†end

ShortDream

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