別仕様のプリンセス





目的地によっては車で行くよりも公共交通機関を利用した方が楽な時もあって。

特に入り組んだ都会の街へ出掛けるときは、こちらの方が断然便利だったりする。



ってなわけで。

とある百貨店へ行く為に、ジローを連れて最寄りの駅まで来たわけなんだけど。



「とっきゅう―!!」



名前が気に入ったのか何なのか。

特別快速、別名特急に乗りたいとぐずりだすジロー。



…困った。


乗りたいと言うのなら乗せてやりたいとこだけど。

待っている人の数を見れば、この電車がかなり混むのは明解で。


けど悲しいかな、小さいジローにはそこまで考える余裕はなくて。


「とっきゅうぅ――!!」


後先考えずにとにかく叫ぶ。



あぁ。

周りの目が痛いです。





「でもジロー、特急に乗るとお菓子食べれないよ?」



急いでたまごボーロが入った袋を持ち上げて見せれば。

途端に止まる非常音。



「食べれ…ないの…?」

「そうだよ。人が沢山居るからね。迷惑になっちゃうでしょ?」



クリクリした目をこちらに向けて、うーんと考え込むジロー。

あまりの真剣さに、シナプスの動きを観察したいくらいだ。



「…じゃあ」


チラリと特別快速が来る線路を見て、それから待ち合わせの為に止まっている普通列車を見る。


「お願いだから普通にして!」と心の中で叫んで。

表情では「どうする?」と笑顔を作る。



「じゃあ…乗る」
「よし!良い子だジロー!」



頭をガシガシと撫でて、気が変わらないうちに急いで車内へと移動する。

ほわんと暖かい風が流れて、色んな意味でホッとした。




はぁ。

一時はどうなることかと思った。



シートに座りながら、安堵の息を吐く。


気をまぎらわせてしまえばこっちのもので。

今は口の中でフニャンと柔らかくなるたまごボーロに夢中だ。



あとはこのまま何事もなければ…



『♪ピーンポーンパーンポーン
まもなく、二番線に特別快速、○○行きが…』


「!?とっ──むがっ」



どれだけ便利な公共交通機関でも。時と場合と連れによるな。




ジローの口を押さえながら。

疲労混じりのため息を吐いた。





†end

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