私は今、自分の無能さに嘆いている。
もし暗い舞台の真ん中で、自分だけにスポットライトが当てられる機会があるとすれば。それは正しく今だろう。
膝を折って淑やかに手を付き、さめざめと泣いて見せる自分はなんて可哀想な悲劇のヒロイン。
あぁどうか神様。
「──っ早くブンちゃんから離れなさいよ、この駄犬が!!」
こいつにありとあらゆる天罰をお与え下さい。
「俺、どっちかと言うと忠犬だよ?」
「見る人から見れば駄犬よ!」
「丸井くんになら首輪着けられたいC〜」
「気持ち悪っ!いいから離れなさいよ!」
ぎゃんぎゃんと反撃しようにも、天敵ジローはブン太に抱き付いた儘なかなか離れようとしない。
絡み付いた腕を剥がそうとも、へばり付いた足を取ろうとも。まるで壁づたいに生える蔦のように、切っても切ってもまたしつこく伸びてくる。
寄生されてしまった当の本人は身動きが取れず、バランスを崩さないようにするので精一杯。
いくらジローの体重が軽いからと言っても、流石に限界がある。
「…はぁ。仕方ないわね」
頭の中に浮かんだのは白いハンカチ。
せめてもの抵抗で、親指と人差し指で摘まんで大層お座なりにそれを振る。
「ブンちゃん。私、あの子たちに会ってくる」
「お、おぉ。悪い」
「ブンちゃんは悪くないわ。…で、そこの駄犬」
落とした鞄を丁寧に拾い上げ、砂埃を払いながら尚しがみ付いているジローを上から目線で見上げる。
「なに?」
「あの子は今、何処に居るのかしら?」
「んー…。たぶんいつもの丘じゃないかな」
「そう、有り難う」
いくら敵と言えども礼儀を欠いては失礼に値する。
──忠犬なのはブンちゃんじゃなくてあの子だけにしてよ。
腹の中の毒は見せず。ブンちゃんに促されて渋々剥がれるジローを確認してから、少し拗ねたような表情を浮かべて言われた丘へと足を向けた。
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