encounter
迷子になりそうなくらい広い土地に、同じく迷子になりそうなくらい広い校舎が建ち並ぶ。
それぞれの校舎を繋ぐ通路が横に伸び、真新しさも手伝ってか。見ようによっては豪邸を彷彿とさせるその建物は、流石私立のお金持ち学校と言ったところか。
実際は昔からある学校だというのに、何故こうも綺麗なのか。自分が通う学校と比べながら溜め息を吐いた。
「…ここね」
校舎の一角。
多目的教室と書かれた部屋の前で立ち止まる。
中ではもう始まっているのか、よく通る声が扉越しにも聞こえてくる。
相変わらず高慢そうな喋り方ね。
少しだけ笑って扉に手を掛けた。
「邪魔するわよ」
躊躇いも遠慮もなく、ガラリと勢いよく音を立てて扉を開ける。
何事かと振り返る生徒たち。
一斉に注がれた視線をモノともせず、彼女は優雅に笑って見せた。
──藤乃麻帆だ
──藤乃麻帆って、立海テニス部のマネージャーの?
──何でマネージャーがこんなところに
ザワザワと揺れる教室内を見渡すと、一番奥の教壇に先程声を響かせていた主が少し驚いた顔で彼女、藤乃麻帆を見ている。
それもそうだろう。麻帆の登場は予期せぬ出来事で、全くの予想外だったのだから。
「久しぶりね、跡部」
「なんでお前がここに居る。アーン?」
「俺もいるぜぃ」
仁王立ちをする麻帆の後ろから、赤髪の男がひょっこりと顔を出す。
正確には手を繋いだ麻帆に引っ張られて顔を出した感じだが、その顔を見て教室内が一層ざわついた。
──丸井ブン太だ
──何でアイツが
──知らないのかよ。藤乃居るところに丸井在り、その逆もまた然りって話だぜ
「…俺は真田を呼んだつもりだったんだがな」
「真田は今縛られてて動けないから、代わりに私が来てあげたの」
「オイ今さらっと問題発言したぞ」
意味深な言葉に皆が眉間に皺を寄せて想像する中、麻帆と手を繋がれたブン太は教室内を縦断し、空いていた一番前の席へと移動する。
たかが学校の備品にしては随分としっかりしたオフィス用の椅子に手を掛け。
「それじゃあ跡部、続けて頂戴」
自分で遮っておいたにも関わらず、何事もなかったかのように続きを促す。
「‥あ、あぁ。そうだな」
完全に麻帆のペースに飲み込まれた教室内で、跡部が咳払いを一つする。
この状況下で自分のペースを取り戻そうとするのは、流石と言ったところか。
「それでは、今から男子テニス部合同学園祭についての打ち合わせを行う」
完全に飲み込まれた回りの生徒たちを置いて、会議は跡部と麻帆の独壇場となっていた。
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