strands





(それでねそれでね!)

(うんうん。そうですか。良かったですねぇ)




春仕様の雲に見下ろされながら、携帯の液晶画面を眺める。




「ジロー先輩」

「んー…?」




気のない返事を返すジローは、悠子の膝の上に頭を置いて、今にも寝そうな顔をしていた。



「今メールがきたんですけど、麻帆がこっちに──「丸井くんが!?」



話の途中でジローが突然体を起こすものだから、開いた携帯がおでこに当たりそうになる。

それを反射で退けて顔を上げれば、先程まで眠そうに目を擦り上げていた筈のジローが、目を輝かせながら脱兎の如く走り去って行くのが見えた。




「──来てるらしいですよー…」




伝える筈だった言葉は誰の耳にも入らず、ただ語尾を伸ばして消えていく。

麻帆としか言っていないのにこの反応。
どうやらジローの脳内には「麻帆」と聞くと、「丸井くん」と変換される機能が付いているらしい。

何というハイテク機能。
前者の名前はガン無視か。


月一で見れるか見れないか位のハイレベルな笑顔を見せながら走って行ったジローを思い返して、その後の展開を予想する。



──頑張って、麻帆。



"それを言うならポンコツ機能よ!"と訂正を投げ付けてくる麻帆に心の中で呟いて、小さくグッドラックと親指を立てる。

そのままその指で電源ボタンを長押しして。真っ暗になった画面を閉じて伸びをした。




「いい加減ブンちゃんを返しなさいよ!」

「えー?やだC〜!」




麻帆とジローの間で繰り返される平行線の会話を、少し離れた所から眺める。

今日は水曜日で部活は休みなので、幸いテニスコートには自分たち以外に人は居ないが。良く響く声に、通りがかった生徒たちが野次馬のように顔を出す。

今も何事かと何人かが顔を覗かせたので、曖昧な表情で会釈を返せば。何かを感じ取ってそそくさと戻っていく生徒たち。

察しが良くて何よりだった。



「いやー。人気ですねぇ、ブンちゃん先輩」

「お前も見てないで助けろよ」



隣に立っていたブン太に冗談っぽく言えば、眉をハの字にして呆れた声で返される。

麻帆を?ジローを?
わざとそう聞こうと思ったけど、少し可哀想だったので止めにした。




「ジロー先輩。私、帰りますけど良いですか?」




二人の言葉の投げ合いの隙間を見付けて、助け船を流す。

必殺、困った時は"お母さん先に帰るよ"作戦。
これで釣れない子供はまず居ないだろう。



「あ、待って悠子!俺も帰る!」



ほら、掛かった。



「もうブンちゃんにまとわり付くの止めなさいよね!」

「またね丸井くん!」

「ちょっと聞いてるの!?」



ごめん麻帆ちゃん。
多分聞いてない。


ご立腹の麻帆とそれを諌めるブン太にじゃあねと言って手を振れば、メールはちゃんと返しなさいよ!と麻帆に釘を刺される。

それを気のない声で承諾して、バッグにラケットを差して慌てた様子で走ってくるジローを待った。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -