マとノロケ





池袋駅から歩いて少し。

何の変哲もないよくあるビルの二階に、そのカフェはあった。


しろくまカフェと名付けられたそのお店は、名前の如く店内にクマが溢れ返っており。

ヌイグルミや飾り付け、はたまた飲み物を入れるポットまでもがクマを象った物で出来ていた。


そんな女子なら誰もが「きゃー可愛い!」と言うようなカフェで、あからさまに浮いた人物が一人。

何故かのバーテン服に、チンピラのような見事な金髪。

胸元には色付きのサングラスがキラリと光り、座った状態でも分かる長身は、まるで小学生の小さなイスに座っているかのように小さく折り畳まれている。




「ここ、一度来てみたかったんだよね」




そんな如何にも気まずそうな雰囲気を出している男の向かい側ではしゃいだ声を出すのは、愛らしいという言葉が似合う女の子。

この店自体がこの女の子の為にあったのではと錯覚してしまう程の愛らしさに、何故こんな男と居るのかと店内の人たちはつい視線をそちらに向けてしまう。




「思った通りの可愛いお店だね!」

「あ、あぁ。そうだな」




そんな周りの視線に気付かない程、その男、平和島静雄は鈍感ではなく。

寧ろ気付かなければ良かった、いやこの店に入らなければよかった、いやいっそのこと外に出なければ良かったと頭の中で後悔を重ねる。


何故あの二人がという疑問の声が聞こえてくるが、──幻聴かもしれないが──彼女、名字なまえは今現在静雄と付き合っており、今もガラにもなくデート中という訳だった。




──そりゃ、行きたいと言われれば行くしかねぇけどよ…




視線を煙草で誤魔化したい気持ちに駆られるも、当然店内は禁煙なので吸える筈もなく。無意味にストローを咥えたり離したりを繰り返してみる。

イライラしている訳ではないが、どうしたって居心地の悪さは拭えなかった。




「どうしたの?シズ君」

「あぁ、ワリィ。何でもな…っ」




すっかり自分の世界に入ってしまっていた思考を慌てて呼び戻して顔を上げれば、続く筈だった言葉が不自然に途切れる。

代わりに視界に入ってきたのは、なまえの顔を隠すように宙に浮いた、クマのヌイグルミだった。




『やぁやぁ、しけた面してどうしたんだい静雄くん!』

「…何やってんだ」

『何とは失礼な!僕はえっと、クマのジョディー政宗だぞ!』

「すげぇなハーフかよ」




なまえのネーミングセンスはひとまず置いといて、顔の前に置いたクマの腕をピョコピョコと動かして、裏声で話してみせる彼女の姿はなかなかの破壊力がある。

思わず可愛いと言ってしまいそうなのをグッと堪えて、家に帰ったら行為で示してやろうと思うのはやはり自分の思考がノロケているからか。


すっかり周りの目が気にならなくなったのは良いものの。

今度は目のやり場に困ってしまい、更に身体を小さく折り畳む静雄はやっぱり居心地が悪かった。





†end

DRRR ShortDream

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