「ハンドルネームさん?」
街灯が煌々と夜空を照らす22時。
不規則な生活を送る若者達がたむろう、西口公園の噴水前。
特にすることもなく、何となく噴水を眺めていたら。
後ろから、少し遠慮がちに名前を呼ばれる。
振り返ってみれば。
そこには眼鏡を掛けた一人の男。
スーツを緩く着こなして、顔には人の良さそうな笑みを浮かべている。
「…奈倉さん、ですか?」
「やっぱり。良かった、ちゃんと会えて」
「初めまして」
「あぁ、初めまして。じゃあ早速行こうか」
「はい」
簡単な挨拶を済まして、男が指を指した方へと足を進める。
どこへ行くのか。
それは分からなかったが、特に聞く必要もないと思った。
「遅れてごめんね。待ったよね、ハンドルネームさん」
「いえ、私もさっき来たところなので」
私をハンドルネームと呼ぶこの男は、先月私が書き込みをした自殺志願掲示板で出会った男だ。
ハンドルネームというのは勿論ハンドルネームだけど、この男の奈倉という名はどちらなのかは分からない。
けど、そんな事はどうでも良い事で。
ましてや今から死ぬ人間がそんな事を気にしていても意味がない、と私は思う。
要は会話に不自由が出ないよう、お互いに相手の呼び方さえ知っていればそれで良い。
だから。先程から感じている違和感など、気にする必要はないのだと言い聞かした。
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