Title by 確かに恋だった


もしも今ここで世界が終わるのならば、オレは真っ先に貴女の姿を探しに行こう。
滅び行く世界、崩れ落ちる中で、それは叶わないことだと知っていても。
どうか、どうか最期だけは許してくださいますようにと。



晩夏が近づいてきたその日の夜は特別だった。
ついに、ついにヒナタ様はナルトにデートに誘われたのだ。
しかし気の利かない男だ。デート先は水族館らしいのだが、その水族館の割引券が明日で期限切れらしい。今の今まで誘う勇気が無かったのだろう。
しかし誘うことに成功したナルトはすっかり満足感に浸っているだろうが、こっちはものすごく大変だ。そう、ヒナタ様が。

顔を時折真っ赤にしながら、箪笥の中を必死に漁ってはあれでもないこれでもない。
もちろんここはヒナタ様の部屋。「ヒナタ様の部屋にお邪魔するなどとんでもない」と、最初は断ったのだが、どうしてもといわれてはもう何も言えない。しかも「ネジ兄さんだからいいの」などという言葉付きだ、断れる男がどこにいるんだか。

そんなオレはヒナタ様の後ろで髪飾りやらを眺めている。
「ネジ兄さんに選んでほしい」とは言われたのだが、彼女、緊張しているのかやはり抜けている。
髪飾りは服が決まらないと選び難い。そのことを彼女は忘れているのだ。

「ええっと…これとこれ…はもう寒いかな?で、でもこれじゃあ暑いし…」

そんな事実にも気づかないヒナタ様は、服を取っては床に置きの繰り返し。
まったく、彼女ならば何を着ても似合うだろうに。
あの男ならきっと、どんな格好のヒナタ様でも普通に笑ってくれるだろう。…言いにくい話、何も言ってこないが正解かもしれないが。
いや、だからそれを避けるために可愛い服を選んでいるのだ。どんな服でもヒナタ様が着れば愛らしい、けれどもその中での一番を。

「……」
「えっと…や、やっぱりオレンジかなぁ…でも水族館って青っぽいし…」
「…ヒナタ様、少し失礼」
「えっ?ね、ネジ兄さん?えっと…どうぞ」
「すみません、有難うございます」

ヒナタ様にお願いして隣に失礼。
その瞬間、彼女の藍色の髪からふわりと甘い香りがした。

…それはともかく、服だ。
正直なところ、オレには服のセンスというものが無い。普段から忍服で修業に行き、任務に行き、そのついでに買い物に行き…という生活だ。私服だって当然少ない。
足手まといにも程がある、居る意味など無いだろう。が、これ以上は見ていられない。
時刻はすでに9時を過ぎた。早く眠りに付いたほうが彼女のためだろう、夜更かしをして、肌の調子が悪かったらそれこそ最悪だ。

とりあえずどんな服があるのかをチェック。
なるほど、ミニスカートや体のラインが出るような服はやはり少ない。もともと晩熟な彼女だ。そういう服を着ることにも抵抗感があるのだろう。
ほかには何か無いかと、失礼を承知で見てみると、ワンピースタイプの服が結構多かった。なるほど、確かに清楚な彼女にはそれが似合いだろう。

白、薄桃の基本無地のものと、チェックやボーダー柄のこちらも薄い配色をしたもの。
ほかに、これにあわせるならば何が似合うだろうかと、いろいろ見てみると紺のカーディガン。ネイビー、というのだろうか?があった。おそらく腰辺りの長さがあるだろうそれは、無地のワンピースと相性がよさそうに見えた。
白か、薄桃。選ぶまでも無く、白だと思った。それに、薄桃はサクラを連想してしまう一因となってしまうかもしれない。

とりあえずヒナタ様本人の意見が必要だろうと、「これなんかどうですか」と聞いてみる。
ああそういえば、さっき見たアクセサリーの箱にこれに似合いそうな首飾りもあった。それも記憶をたどって見つけて、ヒナタ様に手渡す。

「確かにオレンジはナルトの色とあうかもしれませんが、あなたの藍色の髪とではすこし釣り合いが取れなくなってしまうかもしれません。黄や橙を無理して着るよりも、貴女には此方の落ち着いた色のほうがいいですよ」
「……」
「…お気に、召しませんでしたか?」

服を抱きしめたままうつむくヒナタ様に、少し不安になる。
やはり余計な世話だったのだろうか、手出しすべきことではなかったのではないだろうか、と。
しかししばらくして帰ってきた言葉は、それとは反したものだった。

「…すごいね、兄さんは。私…兄さんが居ないと、何も出来ないね」

ちくりと、心のどこかが痛む。
やめろ、惑わされるな、この人はそういう意味で言ったんじゃない。
それにこの人は、もう。

「…あなたはまだ、これからですよ」

以前そうしていたように、頭を撫でようとして踏みとどまる。
違和感の無いように、必死で絞り上げた言葉は、「楽しんできてくださいね」という、当たり障りの無い言葉だった。

きっときれいなんだろう、あの男に魅せる笑顔も、声も、何もかも
(次の日の夜、告げられた言葉は残酷だった)

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