Short Dream



(『二羽の鳥が羽ばたいて』主人公ーIf)


 貴方の髪を撫でることが好きだった。貴方の広い背に抱き付いて眠ることが好きだった。貴方と腕を組むことが好きだった。貴方と指を絡めることが好きだった。貴方をからかうように不意打ちでキスをすることが好きだった。貴方に口づけられることが好きだった。

 貴方のすべてを、愛していた。


 雨が降り続いている。止むことのない雨が、あたしの心を病の縁に追い込んでいく
。貴方が帰ってくることがないと、実感することが出来ないままもう何年が経ったのだろう。結局運命なんてと嗤っては、何度貴方を忘れてしまいたいという一心で慣れない酒におぼれただろう。

 「ネジ」

 どうか、どうか帰ってきて。もう一度あたしのそばへ。ううん、もうそんなことは望まない。あたしのそば、なんて我儘は言わない。
 どうか、あたしが遠くで見られるような距離に戻ってきてほしい。笑っていてほしい。あのときみたいに、空を見上げながらまっすぐと地面に立っていて。この世界にいるあたしと、同じ空気を吸ってほしい。

 「ネジ」

 この世に神様なんているんだろうか。この忍者の世界に神なんて概念を信じるなんて、あたしはおろかだろうか。それでもいい。愚かでも何でもいい。ああ、どうか、どうか。あたしに、来世を。

 「ネジ」

 もしも生まれ変わったら、今度はこんな忍者なんて関係のない世界にいこう。貴方がこんな悲しい死に方をしないように、あたしは何にも縛られないようなそんな家に生まれよう。そして、貴方がもしもまた、死んでしまうようなことに巻き込まれそうになってしまった時は――あたしが、貴方を命に代えてでも守ろう。
 そんな未来。来世。そんな世界に行けたらいい。ああ、どうか。どうか神様。




 「ネジ」




 高校の玄関に貼られた「祝・入学」の張り紙。そしてクラス割り当ての張り紙をぼんやりと眺める。1組…2組…3組でようやく自分の名字を確認することが出来た。ほかに入学した知り合いは全員違うクラスに行ってしまったらしい。
 ふう、と息を吐いて張り紙から目を逸らし、そのまま玄関に向かう。そのとき、誰かがオレの名前を呼んだ。しかし、周囲に知り合いの姿はない。…聞き間違えたのだろう、そう結論を下したオレは、鞄から用意していた上履きを取り出し、外靴と履きかえる。下駄箱はまだ用意されていないので、外靴用の袋に靴をしまう。そのとき、もう一度また自分の名前が呼ばれた。目の前からした声だったので、顔を上げる。
 女だった。見知らぬ女。新品の制服を纏った女は、目を細めて微笑んでいる。…誰だ?全く見当がつかない。中学時代にも見かけた覚えのないその女のまわりを確認する。だが、オレの名前を呼んだのは態度からしてこの女だろう。

 「…なんだ?」
 「…日向、ネジ君よね?」
 「…そうだが」
 「…そう、やっぱり、そうなのね」

 感慨深げに女が日向ネジ君、とオレの名前を呼ぶ。どこか悲しげな女の態度に、オレは首を傾げた。怪訝に思うオレの心情を察したらしい女が、「あ、驚かせてごめんなさい」と少し頭を下げる。それから、目元に指を当て何かを拭うしぐさをした後(泣いていた?まさか。何故)、にこりと笑った。

 「あたし、歩。今日から同じクラス、よろしくね」

 ぱたぱたと女が歩いていく。突然の自己紹介にわけがわからなくなり、俺は首を傾げた。


 
 END



****

 原作最終回と聞いて悲しくなって、昔の小説読んでたら泣いた。あの、長編どうしたらいいかなって本気で悩んでる。やっぱりこの主人公をベースにやり直したくなった。こんな感じの始まりと、ゴジアオイ、どっちがいいですか。誰かに問いかけたくなりますね。全ネタバレを公開したうえでどちらを読みたいか選んでもらえばいいんでしょうか。選んでくれる方、いましたら教えてください。


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