Short Dream



高校が別々になった、最近疎遠になりがちの幼馴染の家が荒れているということは知っていた。
だが知っていてもどうすることは出来ない。所詮他人のオレがかけられる言葉など、「頑張れ」という無責任な言葉一択のみだ。それ以外に何かできることは無い。学生のオレが「家出してこっちに来い」などと言っても養える経済力はないし、「そんな奴らは殺してしまえ」なんて言っても法律が邪魔をする。
だからもう、放っておくしかなかった。それしか道はない。そうだな、できるならせいぜい愚痴を聞いてやることくらいか。


そんな幼なじみがある日、「もう分かってくれないならいいよ」と泣きながら去っていき、話をしなくなってから半年後。唐突なことだった。あの日とは違う、何事もなかったかのような顔で、オレの家にやってきたのだ。

「どうした?歩」

追い出す必要もない、オレは彼女を部屋に招き入れ、名前を呼ばれると安心するんだと、笑いながら頬を摺り寄せていた彼女の言葉を思い出しながら、オレは歩の名前を呼ぶ。目の前に居る女は、「別に」と呟きヘラりと笑う。
それだけだった。それだけ呟いて、歩はいつもそうしていたように、オレの隣に座って頬を摺り寄せる。…ああ、甘えたいのだろうなと、オレもいつもそうしていたように背を撫でる。背中が震え始めたのは、どのくらいそうしていた頃だったろうか。

「歩?泣いているのか?」
「ナク?ナクって何のこと?」

顔を覗き込んだ先の頬は乾いていて、歩はその言葉の意味が分からなかったのか、首を傾げて笑っていた。

****

彼女が「行き場をなくしたので自刃する」という書置きを残して、高層ビルから飛び降りたのはその日の夜のこと。
参列した葬儀場、花に包まれた笑う遺影、その少し手前にある棺桶は、釘で閉ざされていて顔を映さなかった。
高校が離れた昔の友人たちは口々に言う。

「少し前から、休みがちになっていたな」
「たまに何も言わずに抱きついてくるとか、よくあったわね」
「ネジからもらったんだっていうキーホルダーを、穴が開くほどずっと見つめている時もありました」
「死ぬ以外に、あの子には逃げ道がなかったのかしら」

――逃げ道。それはきっとオレのことだろう。何故、彼女が最後にやってきた場所がオレの元だったのか、何故震えていたのかが、今になってやっと分かった。
彼女が求めていた「助け」は、住む家でもない、家族の死でもない。本当に無責任な「励まし」と「温もり」だったのだ。
あの時、オレは彼女に「大丈夫か?オレがついているから」と、一言でもいいから言ってやればよかったのだ。消えていくことの無いように、強く抱きしめてやるべきだったのだ。
何故、オレは、それもせずに、彼女の本当の救済は何かと勝手に決めつけて。何もしないことがせめてもの救いだと、望まれたときに受け止めることしかできないなど。

「ネジ、可哀想ですよね。ずっと好きだったのに、突然いなくなるなんて」

震えていた彼女の涙が、もう枯れきっていたことに、どうしてオレは気づけなかったのだろうか。

助けてくれない
いつだって俺たちは、最善策を求めてる。


****

某長編小説の子が普通の高校生だったら。某長編小説にさらにもう一つ世界があったなら。
イメージソングはRADの「05410−(ん)」より。一番から二番の「なんで泣いたの?」まではネジ、そのあとの「もしやだって言われたらどうしよう」から女の子視点のイメージです。

入れたかったもの

「ねぇ、あたしってもう、壊れていると思う?」
「壊れていない」と返した先の彼女の顔が、少しだけ歪んでいたことを覚えている。狂いきれないでいたのだろうか、だから、本当に狂うために、彼女は。それでも遺書を書くというまともな思考回路が残っているということから、彼女はやはり狂いきれずに死んでいったということがうかがえた。

久々に甘いの書きたくなってきますね。


back

- ナノ -