Short Dream



「子守歌とはなんだ?」
「・・・は?」

子守歌。
誰もが一度は聞いたことがある歌であろうそれを、彼は知らないと私に言った。


「本気で知らないの?」
「ああ、知らん。子供を守る決意の歌か?」
「いや、違うから。それ…」

歩は思わずため息をついた。

ことのはじまりは火影に言い渡された任務。
子供の子守ということで、ネジと歩だけで充分だと言い渡された同じ班員の二人は、一時間くらい子供の面倒を見ていたが、途中子供が子守歌を歌えと言い出したのだ。
とりあえずは歩が軽く歌ってすぐ寝たのだが、ネジにはよくわからなかったのだろう。
任務が終わり、ネジの家で二人はそのことについて話していたのだ。

「ネジ様…まさか子守歌を知らなかったなんて、驚いたわ」
「今は『ネジ』でいいだろう…歩」
「ん、そうだったね…ごめん」

歩は一族の次期当主であり姫。
日向より僅かに格上な歩の一族の教育は厳しく、彼らは日向分家のネジにあまり良い印象を持っていなかった…が、歩は別だった。
ただ、一族の教育は厳しく、相手を様付けする場も多く…いや、寧ろ義務づけられていたため、歩は一族の目の届かないところでのみ、人を呼び捨てやあだ名で呼んでいた。

「子守歌ねぇ…私はよく使用人に歌ってもらってただけだからなんとなく覚えてるんだけど……親が子供を寝かしつける歌……だね、あれは」
「どんな曲だ?」

子守歌に興味があるのか身を乗り出して歩に聞いてくるネジ。
その姿は普段のネジからは絶対に想像できない姿で…顔に「聞きたい」とはっきり書いてあるのが歩には見て取れた。

「…なら歌おうか?私」
歩がそういうと、ネジは少し嬉しそうな顔をして微笑み言った。
「ああ。頼む」
歩はよし…と呟き息を吸った。

“眠りなさい 私の坊や
ひらりひらりと ふわりふわりと
天に揺れる羽のように 心地良き眠りにおつきなさい

日の下に召す神様よ この子にひとつ小さな恵みを
小さな愛しき私の子 みんなにひとつ小さな恵みを
与えて下さい 与えなさい
優しく暖かな愛の恵みを”


ふぅーと息を吐く。
やはり普段顔を合わせている人の前で、歌うというものは恥ずかしいものだ。
照れ隠しに、歩は明るく笑って見せた。

「こんな歌かなっ私が聞いたのは・・・って・・・寝てるの?」

なんと、壁にもたれかかって目を閉じ規則正しい寝息をたてるネジの姿。
初めてみる無防備すぎたその寝顔に、歩の胸が高鳴る。
それと同時に、ちくりと胸が痛んだ。

この人は聞いたことがなかったのだろうか。
それとも…辛い闇に閉ざされていたうちに、葬ってしまったのだろうか。
母親の、暖かさを。
使用人から教えてもらった子守歌。
その温もりを知らずに生きてきたなんて…。

ならば、私が。
そばにいられる限り歌ってあげよう。
恵みを祈る、子守歌を。

ふっと優しい笑みを浮かべて歩はネジに囁いた。

「お休みなさい」

こぼれ落ちたのは涙じゃなくて、暖かな恵みである笑顔だった。

****

次ページが死ネタとなります。
暖かな気持ちで終わらせたい方はここで戻ることを推奨です。


back

- ナノ -