本誌でネジが死んだという訃報を受けたのはもう3年以上前になる。
当時私は高校生で、単行本でNARUTOを追っていた。死亡した事実を知ったのはツイッターだった。慌てふためいてネットで検索すれば出るわ出るわネタバレ画像。今はやりのナルトスだと信じてたかった。だけど、ジャンプ発売当日、今まで絶対にやらなかった立ち読みを学校に行く前にするためにコンビニに向かいNARUTOを開いた瞬間に思い知った。ああ、コラじゃ無かったと。
それからは今まで言わっていた誕生日を祝うことも、NARUTO本誌を追うことも苦痛になってしまった。最終回付近でやっと少しNARUTOを読みだしたし、映画も見た。確かにほかのキャラが幸せになったことは嬉しい。非常にうれしい。だけど、ただ一人其処にネジだけがこの世にいない。ネジだけが取り残されてしまった。その事実が重く残った。
ほかの人を好きになりたいといろんなジャンルに手をのばしたけれど、彼以外に狂おしいほど好きになれる人はいなかった。本当に愛していたのだとその時気づく。もう彼以外に私にはいなかったのだ。現実の私は未婚のはずだったけれど未亡人のような気分だった。心の中では結婚していた。夢小説では何度愛を語らいあったかわからない。リアルの夢の中でも何度彼に抱き付いたことか。
でも現実は厳しい。ネジが穢土転生で生き帰るのはまだだろうか。それをひたすらに待ち続ける日々だけが続く。ネジなんて好きにならなければよかった。NARUTOなんて見なければよかった。そんなことを思いながら今日もPixivとTwitterを周回する。ずっと、同じ日々の繰り返しだった。
転機が訪れたのは突然だった。彼が死んだと知ったあの日のように、いつだって驚愕する事態というものは突然起こる。
大学生になって家を離れて、地元とは違う別の場所で暮らし始めて2年が経とうとしているある冬の日の朝。いつものように私はベッドでぬいぐるみに囲まれながら目を覚ました。いつものように着替えて歯を磨いて授業が始まる20分前に大学に行って、テスト期間だったからそれなりに勉強をしてテストで沈没して、家に帰らずにバイトに直行する。何も変わらない1日だった。そう、バイトが終わって帰宅するまでは。
「ただいま」と返してくれる相手もいないのに言ってドアを開けて、手探りで部屋の電気をつける。その瞬間私は、どさりと手に持っていた鞄を落とした。部屋の奥に置いてあるベッドに、見覚えのあるシルエットが横たわっていた。
「…まさか」
苔色のベスト、黒い忍服。長い黒髪がだらりとベッドの淵に垂れている。そっとのぞき込んだその人に、あの大きな貫通傷はなかった。かすり傷や血痕はいくつか残っている。だけど、あの致命傷の痕がない。額当ての呪印も残っている。
戦争中からトリップしてきた?いつ?どのタイミングで?…ああ、でもそれどころじゃない。まずはこの人をどうにかしなくちゃ。ちょっと、冬は寒いんだし毛布、毛布を上にかけなきゃ。ネジに付いてる汚れなら全然いい。気にしない。毛布を引っ張り上げ、ネジの上にかける。驚かせないように、じゃまにならないように、でも近くいたいからとベッドのそばで体育座りをした。ストーブが付いてるからきっと大丈夫、起きるまで待っていよう。静かに私は座りながら、ネジの呼吸する音を聞いていた。
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目を覚ますと見知らぬ天井が見えた。どういうことだ。オレは戦争に出ていたのではなかったのか。確か、マダラの攻撃をかわしきれずにそのまま直撃しようとしていたところで…ナルトは、ヒナタ様はどうなった?
起き上がってあたりを見回す。見慣れない部屋だ。10畳程度の狭い部屋にあらゆる家電が所狭しと置かれている。目線を下に向けると、部屋のある時らしき女が膝を折りたたんで丸くなり眠っている。
「…おい」
わけがわからないので女に説明を求めようと声をかける。浅い眠りだったらしい女がぱちりと目を開け、それから目を見開いて口を動かした。夢じゃない、と。
「ここはどこだ?お前は…って、おい!?」
「…会いたかった。死んだなんてやっぱり嘘だったんだ…」
「?」
立ち上がってオレに抱き付き、泣きじゃくる女に疑問が募る。この女はオレを知っている?なぜ?女は泣きじゃくってばかりで話にならない。ひとしきり泣いて、女がオレを見て「ごめんなさい」と謝った。どういうことなのかわけがわからない。何故お前がオレを知っているのだと問いかける。少し悩んでから女が笑った。
「あなたが私を知らなくても、私はずっとあなたを知ってたよ。ネジ」
「…なぜ名前まで」
「ずっと見てた。好きです、あなたのこと。大好き」
やっと伝えられたと女がまた泣きだす。オレはただただ首を傾げるばかりだった。
To Be Continued.
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