やらかした。端的にそう思った。
泣きながら私は何してるんだろう、取り返しのつかないものを見せてしまったとぐちゃぐちゃになる。ていうか、こんな展開を私は知らない。死ぬと思ってたけど、そっかやっぱりネジがいなくなるとヒナタが死ぬんだ。当たり前のことなのに気が付かなかった。ていうかネジがNARUTOの世界から丸々消えてるとは思わなかった。うそでしょこんなのNARUTOじゃないと思う前に、とりかえしのつかない事態にパニックになってる。どうしてこんなことになったのか……。
「ネジさん」は「帰らなくては」としきりにつぶやいている。わかってる。ネジが帰らないといけないことがおきてしまう。だってネジが帰らないとヒナタが死んでしまう。ヒナタが死ぬってことはナルトは結婚相手を失うわけで、つまりボルトも生まれないわけで世界が途切れてしまう。それはたぶん、あってはならないこと。わかるんだけど、わかるんだけど…。
「嫌だ…帰らないで…」
私の口から飛び出たのは理性とは全然違う言葉だった。ネジさんが「何故」と私に問いかける。なぜも何も決まってる。どうして好きな人が死ぬのを黙って見送らなければいけないんだ。
「好き、好きなの。死なれたくない、お願いどこにもいかないで」
「じゃあお前はヒナタやナルトが死んでもいいというのか」
「そうじゃない。二人にだって死んでほしくない!でも、でも…」
「私にとってはネジが、あなたが一番大切なの」
そうだ。私にとってはネジがすべてだ。
はじめてNARUTOに出会って4巻で一目見たその時からネジはずっと私の心の中にいた。何度「運命なんて誰かが決めるもんじゃない」というあの言葉に励まされたかわからない。アニメでもゲームでも漫画の中でも一番はネジだった。ネジよりかっこいい人はもちろんたくさんいたけれど、好きなのはずっとネジで。私の支えだった。一番心の中心にいる人だった。
そんなあなたが死んだと知ったとき、私はどんな気持ちになったか。
あなたがここにやってきたとき、どんな気持ちになったか。
あなたにはきっとわからないのだろう。私の気持ち、なんて。
「…お前がオレを好きだというのは有り難いことなのかもしれないが、オレはそれに応えられない。オレは帰らなくてはならない。お前のオレに死んでほしくないなんて気持ちは、――正直に言って迷惑だ。押し付けでしかない」
ほら、そうなの。わかってる。
あなたの気持ちは、わかってる。
だってあなたと私は、はじめから住む世界が違うのだから。
涙が止まらない。こんなに好きな人を私はどうしてまた失わなくちゃいけないんだろう。ううん、あの日よりも痛みが深い。だってもう私は生きている彼の体温を知ってしまったから。声を聴いてしまったから。もう戻れない。知らなかった頃より痛い。知らなかった日には戻れない。
「…そう、だね。…私たちの気持ちなんて、迷惑に決まってるよね。……ネジにはネジの生き方があって、信念があって、選ぶ道があるんだもんね。……ごめんなさい」
「悠」
「ごめんなさい、ちょっと、出ます」
部屋の鍵を持って携帯電話も財布も持たずに外に飛び出す。ネジさんが大きな声で私の名前を呼んだ気がしたけれど、聞こえないふりをした。
外はもうとっぷりと日が暮れている。誰もいない田舎の街に飛び出して、年甲斐もなく走って、お気に入りの場所まで息を切らしてたどり着いて、私はわあっと大泣きした。家に戻ればネジさんはもういない気がした。これが永遠の別れになるような気がしてならなかった。それで余計に悲しくなった。もうめちゃくちゃだった。何が原因で泣いているのかもわからなかった。
「悠」
やがてあの人が私の名前を呼ぶ声がしたような気がした。でも涙が止まらなくて、嗚咽もひどくて顔もぐちゃぐちゃで振り向くことができなかった。
あの人が私の前に立って、「ひどい顔だな」と私が普段使っているタオルで顔をぬぐってくる。ねじ、と名前を呼ぶと「ん?」とこちらの顔を覗いてくる。さっきと違って優しい顔だった。
「帰ったんじゃ、なかったの」
「帰り方がわかれば帰ってたかもな。だが、あの状況で帰るほどオレは酷い人間でもない」
「…なんで」
「お前に、悠に酷いことを言ってしまった。謝るべきだと思って来た」
「…どうしてここがわかったの?白眼、使えないんでしょ?」
「なぜだろうな…なぜか分かったんだ。それだけだ」
ああ、なんて人だ。なんでまたこんなに好きにさせるんだろう。
でももうこれ以上「死んじゃいやだ」とも「好きだ」とも言えなかった。もう言葉が詰まって詰まって何も出てこなかった。カラスも眠るこの時間に少し風が吹いた。ネジの言葉が響く。
「…オレは少し、冷静になってみてお前のことが知りたくなった。どうしてオレにそこまで死んでほしくないと言ってくれるのか、考えてみたくなったよ。…帰る場所がわかるまで、オレは答えを探してみようと思う」
「ネジさ、」
「ネジでいい。悠、お前はどう思う?…しばらくは、それでいいと思うか?」
「はい…!」
答えはそれしかなかった。また涙が出てくる。ネジが私なんかに歩み寄ってくれると言ってくれた。私にはそれで十分だった。うれしくてうれしくてまた嗚咽が漏れる。こんな風に泣くのはいつぶりだっただろう。もしかしたらはじめてのことかもしれなかった。
こうして彼と私の新しい日々はスタートした。
To be continued.
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