「ん…っ…」
鼻にかかったような甘い吐息が響く。
こんな声を出したのが自分である、ということが信じられなかった。自分を後ろからぎゅうぎゅうと抱きしめているのは、彼女の恋人。彼はやわやわと舞衣の豊満な胸を服の上から撫でながらかすかに笑っていた。
「意外に敏感だな」
「あ、ネジ、やっぱりこんなの…や…」
「もう戻れないといっただろう。どれだけ我慢してきたと思っているんだ。今更後になんて…引けない」
「や…ぁ…っ」
ぷつん、と胸の締め付けが緩むのを感じて、舞衣は小さく甘い悲鳴をあげた。
するすると抜き取られたブラジャーが、ぱさりとベッドの下に落ちる様を見て、また身体が熱くなるのを感じる。ああ、もうまだお風呂に入ってないのにこんなの、ちょっとくらい待っててほしかったかもしれない。
「欲しい」と、望んだのは私だった。
触れあう温もりを、もっと近くで感じたいと願ってしまった。多分、私は夏の熱気に流されたんだ…と、そう思うことにして、そのまま頷いてしまった。それがまずかった。
「ふ、はぁ…ぁ、っ…」
服の中でゆるゆると揉まれる胸が、てっぺんが、身体の真ん中が、ちりちりする。逃げ出したくなるような変な気分が、なくならない。さらに耳元でネジが「卑猥だな」ともともと甘いテノールで耳元で呟いてくれちゃったものだから、それは余計にひどくなった。ぴく、と跳ね上がった身体。ネジがまたふっと笑う。
「耳元で囁かれて興奮するなんて、舞衣がそこまで敏感だとは知らなかった」
「や、ちが…違うから…」
「違わないだろう?ここ、立ってる」
「ひゃっ!?」
きゅ、とネジが疼きの頂点を摘む。その瞬間、舞衣の身体は跳ね上がった。むず痒かったその場所に詰まっていた快楽が、弾ける。「初めてなのに、敏感だ」とくすくすとネジが笑うものだから、舞衣はまたさらにかぁ…っと顔を赤くした。今日のネジは、本当によく笑う。楽しくて仕方がないだろうな、なんていつもなら考察することもできたのだろうが、今の舞衣にその余裕はなくただ息を乱し続けるだけだった。
「はぁ…う、…ご、ごめんね…その、はしたないわたしは…やっぱり、ネジはきらい…?」
「まさか。いいと思うぞ、そんなお前も」
だから、もっと乱れてしまえばいいと、手を動かす。「はしたないですか?」なんて聞いてくるところがまた可愛いから、歯止めが聞かなくなりそうで恐ろしい。
すっと焦らすように乳首の周りを指先でなぞると、舞衣が「どうして?」という顔でこちらを見つめてくる。熱で潤んだ瞳が、「もっと」と言っているようだった。
…本当ならここで「欲しいなら言ってみろよ。でないとやめるぞ?」なんて言ってみたいところだったが、あまり初めてで意地悪をしたらトラウマになってしまうかもしれない。それにオレ自身も正直あまり我慢ならない。最初は優しく、あくまでも壊れ物を扱うように…。
「キス、するか」
「うん。……ん…」
唇が合わさる。
ネジの舌が、私の唇をなぞる。くすぐったくて、思わず唇を開いてしまうと、そこからぬるりと入ってくる、ネジの、舌。
くちゅり、とはしたない水の音がした。私の舌を捉えて、絡みつくネジの舌が、気持ちよくて、思わずまた、変な声がこぼれる。恥ずかしい。でも、たまにネジも小さく、低い声混じりの息を漏らしていたから、私だけがおかしいんじゃないんだって安心できた。
しばらくそのまま、ずっとキスを続ける。そのとき、何かが私の内股を、撫でた。
「ぁ…やだ…ネジ…」
「大丈夫。オレに全部、委ねていればいい」
「や…ぁぁ…」
スカートを捲られて、中の、下着に、汚いところに、ネジの手が触れた瞬間、恥ずかしくて、怖くて、涙が溢れる。ネジは私を支えながら動かしている両手のうち、左手を、私の頭に乗せた。ゆるゆると頭を撫でられる。泣きそうになっていた私を、あやしてくれるように彼は眼を合わせて私に微笑むのだ。
「大丈夫だ」
優しくするから、とネジが私の額に唇を落とすと、ちゅ、と小さな音がする。怖いし、何が待ち受けているのかも全然わからなかったけれど、相手がネジなんだからと私は信じることを決めて思い切って力を抜いた。
「向き変えるぞ」とネジが、ゆっくり私をベッドに寝かせる。離れていく背中のぬくもりが寂しい…なんて思っていられたのも束の間、気がついたらネジは、私の上に覆い被さるような体勢を取っていた。
「……!」
「…顔真っ赤」
さっきはあまりよく顔が見えなかったけれど、これでよく見えるとネジが言う。背けることが出来たさっきとは違って、ずっと目があいつづける今の状況が恥ずかしい。けれど、逃れられない。
とりあえず気休めに、顔を空いたままの手で覆う。でも、それは彼の左手によって阻まれた。
「隠すな、勿体ない」
「…ぁ、っふっ…ぅんん…っ」
や、やだ、そんな赤ちゃんがそうしてるみたいに、私の胸の先を吸って、さっきのキスみたいに舐めて、…や、これ、変…どうしよう、本当に、お風呂なんて入ってないのに。
「ね、ネジ…お願い、すぐに戻るからシャワーだけでも…」
「オレは気にしない。いいだろう、このままで。恥じらっている姿もなかなか珍しいし」
「な…」
この人…もしかしてスイッチはいったら性格変わる…?なんだかいつもよりも優しくするからとか言っていた割に意地悪だとおもう。文句の一つでも言ってやりたいところだけど、今まで知らなかった快感に翻弄され続けるばかりで、何も言えない。気づけば私は一番大事な其処まで胸と一緒に刺激されていたみたいで、肌と触れた下着の感触が冷たいことに不意に気付いた。
やだ、私の下着をするりと取り払う。…あ、私ばかり、恥ずかしい。なんて、拗ねていられるのもほんの少しの間だけだった。
「ん……っ…ネジ、それ…やだ…へん…だよ…」
「すまない、すぐ…好くなるはずだから」
だって、こんなの本当におかしい。指が、ネジの指が、私のあそこの中に、入ってるなんて。以前誰かが言っていたような痛みはないけれど、なんだか変な感じがする。
「ネジ…指、や…んぁっ?んん…っ」
「…此処、イイんだな」
なにこれ、さっきまで異物感しかなかったのに。どうしてだろうか膣の中の一定の部分をこすられた瞬間、何かが這いあがるような感覚が伝わってきた。じわじわと這いずってくるような快楽、このままここを擦られ続けてしまったら、何か壊れてしまいそうな…病みつきになってしまいそうな、そんな恐怖。でも、抗うことは出来なくて。
次の瞬間、声が飛ぶほどの何かが、押し寄せてきた。火花が散って、意識が飛びそうになる。きゅう…と、身体の中が収縮していく。
「少しイった…みたいだな。大丈夫か?」
「うん…まぁ、一応…」
とはいえなんだか意識がもうろうとする。身体の力が抜けきってしまっていて、腕も思うように動かせない。なんだか火花が目の前に散っているような…思考も定まらなくて、呼吸も疎かになってしまいそう。本能で分かる。これがイくってことなんだ。
「舞衣、済まない…その、もういいだろうか」
「…ぁ、」
「これ…もう、入れたい。…駄目か?」
がら空きの右手を取られて、すり、と何かと触れる。其処はネジの大切な場所で、また顔に熱が集まる。
はじめて触った彼の其処は、私服のデニム素材のズボンの上でも分かるくらい脈打ってて…心臓が、あるみたいだった。
ネジと、私が、つながる。
小説とか、映画にたまに挿入されるそんなシーンの意味。繋がれたと喜ぶ恋人たちの気持ちがわからなくて、彼と恋をしてこうして大人になってなんとなく行為の名前を知るまでは、なんのことかと首を傾げていたその行為の意味。
でも、今なら分かる。このまま快楽に染まると狂ってしまいそうな気がして不安で怖くてたまらないけれど、
「…いい、よ」
きっと狂うことはひどく幸福なことだと思う。
彼とならば狂気に落ちてしまっても構わない。
不安だけど、彼になら、全てを委ねられる。そう思えた。
一糸纏わぬ姿にお互いになる。
はじめて見たネジの身体は、見ていられないくらい綺麗。前に抱きしめられていたときから、「私とは違って固くてしっかりしてるなぁ」とは思っていたけど、本当に、すごい。恥ずかしい。こんなじろじろと見ちゃ駄目ってわかってるけど、恥ずかしいけど、逸らせない。
「舞衣」とまた名前を呼んでくれる。そして、また唇が合わさる。この瞬間がとても好きなんだ。満たされる気分になるの。
「…入れるから。力、抜いてくれ」
少しだけ離された隙間で、ネジが吐息混じりに囁いた。
いつの間にか合わさっていたネジのそれは、ひどく熱くて、硬くて、大きい。それは、ぐちゅ、と、厭らしい音を立てて、先端にぬめりを纏わせながら私の中に入り込んできた。
「あ、あぁ、ぁ…っ」
「…っ、舞衣…オレの背に、手…回して、痛かったら…爪、立ててもいいから…っ耐えてくれ…!」
痛い。みちみちと閉じた場所が開かれていく感覚が、怖い。言われた通りネジの背中に手を回す。すると、ネジの片腕が、私を抱き返してくれる。ネジの腕と背中は、じんわりと汗ばんでいて、つらいのは私だけじゃないと知ると同時に、そのぬくもりが私を安心させてくれた。
「も…少し…で、つなが…る…っ!」
「ん…っあっ……あぁ…」
「ほら…全部、入った…」
はぁーっと彼が低い息を漏らす。
はじめての痛みが、じわじわと広がり続けたまま、収まらない。その痛みをやり過ごすように呼吸を繰り返す。ネジがその場所を動かさないで待っていてくれていることが嬉しかった。でも、
「もう…大丈夫…」
「…本当に?」
「うん…」
でも、こうして待っててくれるネジだってつらいっていうことは、なんとなく知ってたから。ずっと、私のために色々と我慢して、耐えてくれていたって知っていたから。
私はまだちょっと痛むけど、耐えられないものではないから、だから、
「私は大丈夫、……ふ、」
ネジがまた私に唇を落としてくれる。優しく合わさったそれが、少ししてから離れていく。それが、全ての合図だった。
「舞衣……っ」
「ん…っんん…!」
ずるずるとネジのそれが、抜けていく。全部抜けるのかな、そう思ったけれど、ぎりぎりまで抜かれたとき、またゆっくりと戻ってくる。
身体の中の何かが、一緒に引きずられていくような感覚が、怖い。残り続ける違和感に耐えられなくて、きゅっと目をつむる。ちゅ、というリップ音とともに、身体が跳ねたのはそのときだった。
「あっ…やぁ、それ…や…」
「…舞衣、もう少し力を抜け…っ…苦しいまま…だぞ…!」
「ひぅ…っ」
ちゅ、ちゅ、と胸に口づけられるたびに、目を閉じながら強ばらせていた身体の力が抜けていく。違いに気づいたのは、ゆっくりと、抜けていったそれが、また入ってくる時だった。
「あっ…あ……」
「……っ」
力が抜けたからか、舞衣の様子が変わった。
オ レを拒むように、押し返すようにうねっていた中が、きゅうきゅうとオレに吸い付いてくる。押し込んだ状態で、ぐり、と一番奥の方に先端をさらに押し込むように腰を密着させると、舞衣が目を見開かせて高く啼いた。
「あ、ああぁ…ネ、ジ…っ」
じわじわと、揺すられる間隔が短くなっていく。それでも深くて、いっぱいで、溢れそうで、苦しくて、でも、すごく、気持ちが良くて。
はじめての感覚が、私の身体を支配していく。変な声しか出てこなくて、もう、どうしたらいいのかも分からなくなる。
そんな私に出来る事は、彼にしがみついて、このよく分からない感覚をやりすごくことだけ。
「はっ…舞衣、すごく気持ち良い…オレのこと、食いちぎってきそうなくらい締め付けて…」
「あっ…や…そんな恥ずかしいこと…言っちゃや…」
「そうはいっても言いたくなるんだ。本当に、今日のお前はすごく…可愛い」
どくん、と心臓が高鳴る。
あまりにも甘い、吐息混じりの囁きに、頭の中を一気にかき乱される。ぶわっ…と、何かが、身体中を駆け巡る。
「すき…」
とろんと快楽に染まった瞳が、オレをとらえる。
潤った唇が、はっきりと愛を口ずさむ。たらりと滴る唾液が、彼女の頬を伝っていく。恍惚とした瞳の中に確かにオレの陰だけがそこにある。
あまりにも甘美で、卑猥すぎる光景に、下腹部がまた重くなる感覚がした。
「やっ…またおっきく…」
「舞衣、舞衣…!」
「あっんぁ…ネジ…っネジィ…すき…っだいすき…っふぅ…っうぅ…す…き…!…ふぁっ…らめ、激し…!」
打ちつける腰が速くなる。
目の前にある舞衣の胸が、節操なく揺れて、この行為の激しさを物語る。抱き合って、それだけでは足りなくて、互いの身体に唇をあてて、文字通り「貪りあう」。
限界は、近い。
「ぁ、ぁあっねじ、ね…じ…っなんか、また、来るぅ…!」
「はっ…ぁ、舞衣…おれも…っ」
「ふぁっぁぁ…っイ、く…イっちゃ、う…ぁっぁはぁあ───」
「……っ」
全部が真っ白になる。お腹の中でびくびくと何かが脈打つ。
ぎゅうっとネジを抱きしめると、もっと強い力で返ってくる。
痛いけれど、幸せで、このまま壊れてしまえばいいのに、と目を閉じる。
ふと視界に入ったカーテンの向こうがわ、藍色の空を何かがよぎっていったように見えた。
Happy Birth Day!
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