「おめでとうございます。妊娠十ニ週目です」

残酷な言葉が降り注いだ。
目の前でニコニコしている先生。先生が悪くないとは分かっているけれど、今この瞬間だけ本気で憎らしく思えた。
ぎゅうぎゅう、と拳を握り締めた。強く握り締めたせいで、だんだんと蒼白くなる指先。身体が震えて上手く呼吸が出来ない。
このお腹の中の赤ちゃんの父親が誰か、なんて、考えなくても容易に答えが出てくる。最近は全然顔すら出してくれない、あの、パトリック・コーラサワー。
先生は、私が赤ちゃんが出来た喜びにうち震えているのだと勘違いしてどんどん話を進めていく。待ってよ。何も頭に入って来ないわ。だって、“大佐”にお熱な彼にこの事を言ってみなさいよ。私は今度こそ絶対に捨てられるわ。分かるの。
このお腹の中の赤ちゃんには何の罪もない。だけど、「私のお腹に宿ってくれてありがとう」と思えるような状況だったならば。幸せいっぱいに、お腹を撫でてあげることが出来たならば。男の子かな、女の子かな、なんてわくわく出来たならば。名前は何にしようかしら、と、未来に思いを馳せることが出来たならば。
きっと、赤ちゃんも残念でしょうね。「もっと祝福されたかった。どうしてこんな女の腹に宿ってしまったのだろう」って。
ごめんね。本当にごめんね。
今は、あなたのことを、真っ直ぐな気持ちで愛することが出来ないの。
ごめんね。本当にごめんね。

病院の帰り道は、ただ暗かった。




2013.02.25


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