薄々気が付いてはいたの。彼の心の中にはもう私が居ないって事には。デート中は上の空。話し掛けると「悪い、何だっけ?」。仕舞いには「悪い。今日は気分が乗らないんだ」と私を置いてそそくさと帰る。
そう、気が付いてはいたの。彼の心はもう“大佐”のものであると。
どんなに暇そうにデートをしていても、彼が“大佐”の話をする時だけは生き生きとしている事に、きっと彼自身は気付いていない。
もう、泣きたいわ。
だってその“大佐”は、聞けば完璧な女性で、意志も強くて、自律だってしている。何より大佐という階級に就いてる程ですもの。一般市民の私なんかより断然向こうの方が魅力的で素敵。会った事は無いけれど、彼の熱狂ぶりからしてお顔も相当の美人だろうと思われる。そう考えると、仕事も性格も顔も並レベルの私が、彼と付き合っていられたのが奇跡のようにも思えるの。

「パトリック…」

その大好きな人の名前を呼ぶ。
貴方の居ない夜を何度越えてきたか。貴方の居ない夜が何れ程つらいか。きっと一生分からないわ。
涙がポロポロと溢れて零れる。枯れ果てるまで泣いたはずなのに、まだ出てくるのね。まだこんなに涙が出るのならば、もう少しこの苦しみも我慢出来るのわね、と不謹慎にも笑みが浮かんだ。
ねぇ、パトリック、今夜は何処に居るのかしら。
まさか、“大佐”のところなんか行ってないわよね。
最近は全然会ってないけれど、私達“まだ”恋人同士よ。

お願い、パトリック。
早く、私のところに、帰って来て。




2013.02.25

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