人生最大の危機、とは、多分このことを言うのではないか、と頭はやけに冷静に考えていた。
「…………。」
目の前には無表情の惺の姿。普段から寡黙で無表情な彼女。一見至って普通のように見えるが、その無表情が何時もの無表情を通り越して冷たい。
そもそも、これはリヒティのせいである。そうだ、リヒティがあんなことを言いながら、こんなものを差し出すから。

『ロックオンロックオン!!!これ、観てみて下さいよぉ…!!何処と無く惺に似てませんか…!!』
『お、おまっ…!!!確かに何処と無く似てるが…!!!な、何てものを…!!!』
『ロックオンも若いから色々大変なんじゃないかなぁ、と考えた末っすよ』
『だ、だからってやって良いことと悪いことが…!!』
『まっ、そんなこと言わずに素直に受け取ってください。これ、めちゃくちゃイイっすから』

ぽん、と¨それ¨を俺に渡して走り去るリヒティ。
俺は、託されたそれをじっと見詰めた。



そう、アダルトビデオを。




「……あ……惺…っ、これは…」
情けない弁解が口から洩れた。
リヒティからこれを受け取った直後は、ちゃんと理性も働いていたんだ。いくら惺に似ているからと言っても、別人は別人だ。
だが、部屋の中で異様な存在感を放つそれが気になって仕方無い。
しかも、出演しているAV女優が本当に何処と無く惺に似ているのだ。
何回も視界に入れるうちに、なんか感覚が麻痺してきた。おまけに惺とは、お互いにガンダムマイスターだからそう言う行為もあまり出来ないこともあって、ついにそれを観てしまったのだ。

画面の向こうの女優はそんなに惺と似ている訳では無いのだが、脳内は勝手に惺を映し出して重ねてしまう。
外でバコバコやってる画面の向こう。
そして、俺は耐えきれずに――…



で、暫くそれを見ていた時に、惺が部屋にいきなり入って来て、今の状況に至る。
まさに人生最大の危機。

だって、俺、AV観ながら自慰してるんだぜ。

『…――あん…っ!!!はぁん、!イっ、イくぅ!!!イっちゃうぅぅ!!!!』
無言の俺達。
流しっぱなしのAVが更に気まずさを助長した。
「あ、あの、な、惺…これは…」
流石にまずい。
無表情だから惺が何を考えているのか読めない。
怒っているのか?悲しんでいるのか?引いているのか?
取り敢えず、弁解くらいしなくては、と俺は口を開く。
が、

「ん?どうした?続けろよ」

「……え?」

キョトンとする惺。思わぬ科白に俺もキョトンとする。

「だから、続けろよ」

俺が聞き取れなかったと勘違いしたのか、ご親切にもう一度言ってくれた。
(続けろ、だと…!!?)
さあ…、と血の気が引いていくのが分かる。何なんだ。わざとなのか?天然なのか?どっちなんだ!
こういう時に彼女の無表情は厄介だ。
「ほら、早く。ちょうどAVもイイトコロだろ」
惺はそう言いながらソファーにどっかり腰を下ろした。
(ま、まじで…)
ジッ、と注がれる視線。
不謹慎にも、AVの厭らしい喘ぎ声と、惺からの視線のせいで、熱を持ち始めるソレ。
「…惺……っ、ごめん…っ、俺が悪かったから…!!」
情けなく言うが、惺は無表情で絶望の言葉を紡いだ。
「別に怒ってないよ。ただ男の人が自慰してるの見たこと無いから気になるだけ」
そして、俺を睨み付けた。

「続けろよ」

(お、怒ってるゥゥゥ!!!!!!)


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