つるりとすべる夢を見た。

俺は高価なものは嫌いじゃない。質素倹約くそくらえ、だから月末には金が無くなって、イルーゾォやギアッチョや、ホルマジオの家に転がり込む。おめぐみをイエスさま!俺は非常に都合の良い男である。ついでに言うと無宗教だ。

さてそんなのはどうでもいいとして、俺は高価なものは嫌いじゃない。最新鋭のバイクやら、ブランドものの財布に洋服、金銀宝石毛皮まで、なんでもかんでも嫌いなんかではないのだ。



なめらかな壁に埋もれる、それはある白昼のことだった。真白のそれはやわらかく、つるりと肌にすいついた。それに覆われたしずかな部屋で、俺は残り少ない余生を過ごしていた。残り少ない余生だって?そんな馬鹿なとは思ったが、そうだと思ったのだから仕方ない。俺はごろりと転がって、四方でたゆたう白を見つめた。それはまるで、精神異常者を閉じ込めて逃がさない監獄のようだった。しかし、ちっとも嫌ではないから不思議である。良い白だ。きっと高価だ、それに包まれているなんて、素敵じゃないかい?俺はまぶたをそっと下ろした。



夢だった。

「早く起きろメローネ!おい難聴かこの野郎!!」

ギアッチョがわんわん喚いている、全く最悪な朝だ。こんな時間から元気な奴は嫌いだ、俺は所謂低血圧である。
しかしどうして朝からここまで喚いているのか、もう数え切れないほどギアッチョの家に転がり込んではいるが、こんなのは初めてだった。

俺はゆったりと、ベッド代わりに借りたソファーから起き上がる。
またギアッチョが喚いた。

「緊急集令だ!早くしろ急げ!」

ぬるま湯の中をゆるゆる揺れていた俺の意識が、きんと氷のように冴えた。






さて何故俺は、こんなときだというのにそんな、どうでもいいことを思い出しているのか。
それは妙に気に引っ掛かる、しかし他愛のない夢だった。痙攣を繰り返す指先をじいと見つめて、俺は気付く。

あの白は、蛇の腹中の白だったのだ!

高価なものは嫌いじゃない、蛇皮だって?ベネ!しかしもう蛇なんて懲り懲りだ。俺の視界はすでに、まったく重過ぎるまぶたに負けて、真っ暗になってしまっていた。
もしまた目覚めることができるなら、きっと、俺は質素倹約に目覚めた、良い感じの男になっているだろう。誓うよ。だから、また目覚めさせておくれよ、神様。
(しかし俺は無宗教である。なんてこった!)


嗚呼、いやはやまったく実に残念この上ない!
ただただ俺が落ちるのは、真っ白い牢獄の中、そればかりなのだ。