俺はけものだった。

真っ白い毛皮はひどく冷たいが、中に眠る心臓は熱でみちている。素晴らしくはやく走る足は誰にも負けずに世界を滑走していく!目にもとまらぬスピードで氷河期を連れ歩く俺は世界最強の獣だ。
ひとつ咆哮、すべてが恐れおののく!ふたつ咆哮、恐怖の表情を浮かべた氷像の完成だ。みっつ咆哮、俺は自分の作品に納得のできない芸術家のように、それらをかみ砕く!
きらきらと散ってゆく氷がひどく綺麗なそこは獣の狩場だ。俺は綺麗好きなのさ。目もくらむような一点の曇りもない白がその証拠である。

俺は目にもとまらぬスピードで氷河期を連れ歩く真っ白な獣だ。ただひとりで作品を作り、壊し、鑑賞する芸術家であり芸術愛好家だ。仲間なんていないし、家族もいない。俺は獣だった。


しかしある日のことだ、獣の咆哮はぱったりと止んでしまった。どうやら奴はとうとう人間にうち負けてしまったらしい。真っ黒で奇っ怪な服と頭巾のハンターが一打ち、すぐに獣は倒れたそうだ。あっけないもんさ。すると獣のはらのなかから、ひとついきものが顔をだした。獣に食われたのか、それとも寄生でもしていたのか、とにかくそいつは生きていた。奇っ怪なハンターは一瞥、なにも言わずそいつを連れ帰ったそうだ。

そうしてそいつは今も、見た目に合わず面倒見のいいハンターと、死に切れなかった獣とともに、生きているらしい。
ああそうさ、俺は今も、生きているんだ。

けもの