枝毛って探し始めるとなかなか止まらなくなっちゃうよね、と言うと怪訝な顔つきをされたので、あ、これは意味がわからないって言いたいんだなとわたしは推測した。わたしは視線を自分の髪の毛先に戻して枝毛の捜索を再開する。髪はそこまで傷んでいない方だと思いたいけれど、去年から伸ばし始めた髪の毛の毛先は最近なんだかパサついている。きれいに伸ばすのって難しい。
 わたしはふと前に座っている霧野の髪を見つめた。一見するとただのかわいい女の子だけれど歴とした男子だし、性格は結構男らしい。切るのが面倒くさいと言っていた長い髪はサラサラだけれど、よく見るとたまに枝毛が混じっていたりする。シャンプー何使ってんの?ってこの前聞いたらなんか適当な安いやつって言ってたし、リンスもトリートメントもしていないらしい。そういうところは男の子みたいだ。いや男なんだけど。

「お前髪伸びたな」
「ほんと?」
「まあ切るの面倒だもんな」
「違うよ意図的に伸ばしてんだよ」

 霧野じゃないんだから、とつけ加えるとなんで?と聞かれた。なんでって、

「……だってやっぱかわいいじゃん、ロングヘアーって」
「へー……俺は前くらいの長さも好きだけどな」
「ぅえっ!?!?」
「なんつー声だよ」

 吃驚した!好きって髪ね!髪の長さね!!ものすごい無駄にときめいちゃったよ!!
 まだ驚いている心臓を素知らぬ顔で必死に抑えつける。……ん?てことはわたし髪伸ばさないで切ったほうがいいんじゃないのか?あ、いやでも前くらいの長さもって言ったから伸ばしてても別にいいのかな。そもそも絶対深い意味はないだろうから正直長かろうと短かろうと霧野にとってはぶっちゃけどうでもいい問題だろう。

 やっぱり髪の長い子は女の子らしいイメージだし、どうせなら女の子みたいにかわいい霧野より髪が長かったらいいと思って、肩に少しつくくらいの長さだった髪を伸ばし始めたのだ。それがようやく胸元あたりまで伸びた。けれどなんだかどうでもよくなってきた。たとえどんな意味でも「好き」という言葉は絶大な影響力を誇る。霧野に限り。

「ど、どうしよう切ろうかな……」
「はあ!?長いのがかわいいとか言ったのどこいったんだよ」
「だって霧野が!!霧野がさ!!」
「俺のせいじゃなくておまえが優柔不断なだけ」
「じゃあどっち!?どっちがいいと思う!?」

 そうだ最初からこう聞けばよかった。ハッキリとした意見が聞ければわたしはそれに従おう。
 霧野はしばらく目を瞬かせて、それからふと前のめりになって手を伸ばしてきたかと思うと、え、なに?なんだこれ。両手で髪の毛をつかまれた。顔が近い。ふたつに分けられたわたしの髪の毛を、わたしの耳の下あたりで霧野がつかんでいる。もう一度言う、顔が近い。なんだこれ。

「こうやって結べたらどんな長さでもいいよ」

 霧野の意味不明な行動にぽかんとしているわたしに向かって霧野は言い放った。こうやって、と言うと、この状態はおそらくふたつ結びのことだろうか。霧野みたいな。そう、霧野みたいな。……えーと、

「……なんで?」

 鈍く回転している頭は若干冷静で、顔が近いことに関しては考えることを放棄した。だから霧野のやたら長いまつ毛だとかきれいな青い瞳を観察していた。
 わたしが間抜けな顔をしていたからなのかはわからないけれど、霧野は何かおもしろいものでも見たかのように笑った。青い目は少しだけ細くなった。

「おそろい」

 それだけ言うと霧野はわたしの髪から手を放してまた元の体の向きに戻った。髪がはらりと肩に落ちてくる。おそろい?オソロイ?OSOROI?おそろいってなんだっけ。

「……お、おそろい?がいいの?」
「うん」
「え、な、なんで?」
「かわいいから」

 さすがにかわいいの意味はわかった。
 余裕のある笑みを浮かべている霧野を見てようやく顔が熱くなり始めた。こいつわかって言ってる気がする。わたしの気持ちを知った上で、わたしの反応を見て遊んでいるような気がする。この野郎なんてことだ。今更顔が近かったこととか髪に触れられたことが恥ずかしい。

 わたしはなんとか「 、じゃあ、切る」と言って、満足げに笑う霧野の椅子の足を蹴った。


20130722
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