教室掃除の誰がゴミを捨てに行くかジャンケンにて勝利を確信し高々と拳を突き上げたにも関わらず、わたし以外はみんなやる気のないパーを繰り出してきたため見事に惨敗したのがつい5分ほど前のことだ。薄情にも手伝ってくれると申し出てくれる人はおらずみんな次々と帰り支度を始めたため、茜ちゃんだったら絶対手伝うよって言ってくれるのにお前らときたら…という絶望感に打ちひしがれながらも仕方がないのでわたしは二つのゴミ袋を掴んでずるずると引きずりながらゴミ捨て場に向かった。
 曲がり角を曲がったところで男女二人の生徒が立ち話をしているのが目に入り、カップルなのかは知らないが、二人で楽しくおしゃべりをしているときに目の前を両手でゴミ袋を引きずる女が横切ったらせっかくの雰囲気が台無しになるだろうな、とは思ったのだけれどわたしも早く帰りたいので仕方ないがこのまま歩を進めようと思ったそのときだった。

「ずっと前から好きだったんです!あ、あの、よかったら付き合ってもらえませんか」

 という声が聞こえてきたのでわたしは咄嗟に踵を返して角に隠れた。どうやらカップルではなかったようで、むしろこれからカップルになるのではないかという告白現場に遭遇してしまったらしい。なんというベタな。ていうかゴミ捨て場の近くで何やってんだ。
 よく見たら告白されている相手はあの南沢先輩だった。話したこともないけれどイケメンでサッカー部で超モテる、ということはあまりにも有名な話だ。本当にモテるんだなあ、わたしはいつ帰れるのかなあ、と思ったそのとき背後から突然「お前こんなところで何やってんだ?」という声が聞こえて、わたしは危うく悲鳴を上げるところだった。

「驚かせないでよ!」
「じゃあ声かける以外にどうしろっつーんだよ」

 犯人はクラスメイトの倉間だった。サッカー部のユニフォームを着ている。わたしが小声でしゃべったため倉間もつられて小声になっていた。
 なんで小声?という顔をされたので角の向こうを指差すと、あちら側を見た倉間は納得した様子だった。部活の先輩だし見慣れているのかもしれない。

「つーか覗きかよ、趣味悪いな」
「ゴミ捨てたいのに捨てれないんだよ!」

 人聞きの悪い倉間に握っていたゴミ袋をずいっと差し出すとガサッという予想外に大きい音を立ててしまった。馬鹿静かにしろよ、と言われたがわたしは多分悪くない。

「ていうか倉間こそ何やってんの」
「飛んでったボール拾いに行こうとしたら怪しい奴がいたから声かけただけだ」

 倉間の言葉をスルーして曲がり角の向こうを見る。まだ何やら話し込んでいるみたいだが、女の子は顔を真っ赤にしながら南沢先輩を見つめている。よく見たら隣のクラスの美人で有名な村田さんだった。先輩に告白するなんてすごく勇気のいることだろうな。恋する乙女はすごいなあ。

「告白してる子、隣のクラスの村田さんだよ」
「しっかり覗いてんじゃねーか。つーか誰それ」
「知らないの!?あんなに美人なのに、」
「だから静かにしろよお前は!」

 思わず声を荒げてしまい倉間に手で口を塞がれた。南沢さんに見つかったら後で何されるかわかんねえんだよ、と眉間に皺を寄せている。サッカー部の上下関係は厳しいのだろうか。なんかこれ道端で後ろから襲われてる人みたいなんだけど。
 じゃあ倉間早く戻ったらいいじゃん、と言いたかったのだがまだ口を塞がれていたので何も言えなかった。よくよく考えたら、この体勢ものすごく距離が近い。背中に倉間の体温があって、声がすぐ耳元から聞こえる。なんだか意識したらものすごく恥ずかしい。なんで倉間にどきどきしなければいけないんだ、早く離せ。

「あ」
「…?」
「行った」

 どうやら終わったらしい。ようやくゴミ袋を捨てられる。しかし一体結果はどうだったのだろうか。南沢先輩は女遊びが激しいみたいだし、そういう意味では来るもの拒まずなのかもしれないけれどそれはそれでどうなんだろう。そして倉間は早く離してくれ。恥ずかしくて心臓が限界である。
 ようやく口元から手が離れた。だが手は前に回されたままでもうこいつ何がしたいのかわからない。

「………く、倉間」

 耐えかねて声を上げると、倉間は何故かふっと笑った。わたしの脳内は既にパニックなので何故笑われたのかなどと考えている余裕はなかった。体が、顔が、熱い。

「お前、顔真っ赤」

 それだけ言って倉間はあっさりと手を離し、じゃあなと不敵に笑って去っていった。


 わたしはしばらく硬直したままその場から動けず、ばこばこと動く心臓を抑えつけるのに精一杯だった。なんてことしてくれたんだ。今までよく話すクラスメイトとしか思っていなかったのに、初めて男の子として倉間を意識してしまったのだ。
 手に持ったゴミ袋を見つめながらわたしは倉間の笑った顔を思い出し、やられた、と思うのだった。



20121109 企画アングル様提出
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