4時間目の体育は女子はバレーボール、男子はバスケットボールだった。3クラス合同だし両方とも同じ体育館で行うため館内はとても騒がしい。わたしは適当に振り分けられた5つ目のチームに属することになり、試合の順番が巡ってくるまで友達と2階で観戦することにした。

 我がクラスのバレー部のエースであるチカちゃんがものすごい角度からスパイクを決めているのを見てすげー、と思っていると横の友達もかっこいいねーと感想をもらした。うん本当に。美人で背も高いのにバレーも上手いなんて、もう惚れるしかないんじゃないか。

「ほんと上手だなあ南沢くん」
「うっかり好きになっちゃいそうだよねえ。…え、南沢?」

 会話が噛み合っているようで噛み合っていないなと思ったら友人は女子のバレーなど見ていなく、少し向こうで繰り広げられている男子バスケの試合に夢中だった。
 中でも特に目立つのがクラスメイトの南沢で、つい先ほどまでドリブルをしていたと思ったらもうシュートを決めていた。ところで今南沢に抜かれた人バスケ部じゃなかったっけ。かわいそうに、面子立たないだろうな。

 あっという間に点差が開いて、南沢のチームは圧勝していた。もはやチートである。
 そしていつの間にかわたしたちの出番も迫っており、まだ見ていたいと渋る友人の手を引いて階段を下りた。そういえばバレーを全然応援していなかったが、チカちゃんチームが余裕勝ちしていた。次にわたしたちが当たるのはチカちゃんチームである。怖い。


 自慢じゃないが、わたしの運動神経は皆無と言っても過言ではない。試合にはものすごく出たくなかったが出ないわけにもいかない。ピーッと試合開始の笛が鳴り、わたしは適当に逃げ回ろうと決意した。
 必死にボールから逃げているとこれはドッジボールではないと友人から怒られたが、なんだかんだで運動ができる彼女のフォローのおかげで試合は追いついたり追いつかれたりと、なかなか白熱していた。

 チラリと得点板を確認したとき、向こう側に立っている南沢と目が合った。なんでこっち見てるんだろう、そう思ったとき南沢が突然目を見開き何かを叫んだ。なんだ、と思い振り返った瞬間、ものすごい勢いで何かが顔面に激突し、吹っ飛ばされた。変な声出た。
 あまりの激痛に顔を押さえているとみんなが慌てて集まってきた。どうやらわたしはチカちゃんの放った弾丸サーブを顔面で受け止めてしまったようだ。チカちゃんが本当にごめんと謝ってくれたが、わたしが余所見をしていたのが悪いので謝らないでほしい。ところで鼻折れてないかな。

 みんながものすごく心配をしてくれて恥ずかしくなってきたところ、ちょっと休んでな、という友人の言葉に甘えさせてもらいわたしはよろよろとコートから出た。するとがしっと腕を掴まれて、何事かと思ったらそこには南沢がいた。

「……お、おお。何?」
「保健室、行くぞ」

 え、なんて?と聞き返す前に掴まれた腕をそのままぐいぐいと引っ張られ、ずるずると南沢に体育館から連れ出された。先生になにも言ってないのに。抵抗しようと眉をしかめたら顔が痛かった。今は顔に力を入れてはいけないようだ。





 結局あのまま保健室まで引っ張られ、保健室に着くなりそこ座れ、と南沢は顎で指示を出した。顎で人を使うんじゃない。納得はいかないが大人しく座った。どうやら先生はいないようだ。

「なんで保健室?」
「顔がひでえから」
「おい表出ろ」
「冗談だ。鼻擦りむいてんだよ」

 南沢は真顔で冗談に聞こえない冗談を言いながら戸棚をごそごそとあさり始めた。ぶん殴ってやろうかと思ったが、南沢の言葉に思わず鼻に手を当てる。鏡を見たらなるほど、確かに擦りむいている。
 女の子なのに顔に傷作っちゃった、とつぶやけば南沢に鼻で笑われた。マジで殴るぞ。

「ほら、こっち向け」

 南沢は手に綿をはさんだピンセットを持っていた。今理解したが、南沢はわたしの鼻の手当てをするためにわざわざ保健室まで連れてきてくれたのか。いい奴ではないか。
 消毒液が染み込んだ綿をぎゅうっと押しつけられて思わず声が出た。とても染みる。南沢はまたぶっさいくな顔だな、と笑ってきたので、わたしは密かに手に力を込めた。

 南沢が絆創膏をぺりぺりと剥がしているのを横目にわたしは口を開いた。

「南沢、バスケ得意なの?」
「ああ、まあ。なんでも出来ちゃうんだよな俺って」
「(………)バレー楽しかった?」
「は?」
「だって見てたじゃん。まあ確かにチカちゃんはすごかったけど」

 南沢はなにも言わずに絆創膏を持って座っているわたしに合わせて屈んだ。う、おお、思ったより顔が近い。こいつは顔は良いから至近距離だと本当に困る。なんだか変に緊張する、早く貼ってくれ。
 視線を右に左に泳がせていると、南沢がゆっくりとわたしの鼻の頭に絆創膏を貼った。その際にわずかだが南沢の指が頬に触れて、心臓が跳ねた。やっと終わった、と思ったら南沢はそのまま手を滑らせて、あろうことかわたしの頬を優しく撫でた。わたしは完全にフリーズした。えっ、えっ、なにしてんの?南沢なにしてんの?と声に出すことはできず、ガチガチに固まっていた。顔に熱が集中するのが嫌でもわかる。そのまま優しい手つきで顎を掴んで待つこと5秒。南沢は静かに手を離した。

「お前を見てたんだよ」

 南沢はやけに真剣な顔でそう言うと、絆創膏のごみをごみ箱に捨ててそのまま保健室を出て行った。脱力したわたしは座ったまま前に倒れ込んだ。周りから見たらお腹が痛い人だと思われるかもしれない。そんなことはどうでもいい。なんだあれは。あんな南沢は見たことがない。あんな熱のこもった視線で見つめられるなんて。
 南沢に触れられた部分が異様に熱い。なんだこれ、どうしよう。もう南沢のこと見れない。

 頭を抱えて悶えていると保健室の先生が戻ってきた。トイレに行っていたらしく、ずいぶん長いこと行ってたなと思った。もう手当済みのわたしの鼻を見て心配をしてくれたが、もう大丈夫ですと言ってわたしも保健室を出た。ああ、お礼言い忘れちゃったな。



20120917
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -