ああ、きれいだな。不意に見上げた空はどこまでも青かった。まさに雲ひとつない快晴と言ったところか。そこから視線を変えれば、いつかの久々知が庭を歩いているではないか。それをじいっと見つめる。
久々知とはつい最近話したばかりで、その前まではロクに名前を知らなかった。だって、「久々」に「知る」と書いて「くくち」と読むだなんて、この0点チャンピオン竹谷くんが分かるまい。うんうんと頷いていれば、右肩が急に重くなった。


「なあ〜に一人で頷いてんだ?0点チャンピオンの竹谷くん」
「おい三郎、重いって」
「なんだ?久々知じゃないか」


人の右肩に体重を掛けておいて俺の話しは無視か。
しかし、こいつは本当に、目敏いやつだな。人の視線の先を意図も簡単に察する三郎に、怒りを隠しながら笑えば、ぴくぴくと頬が引き吊る感覚がした。「なんだその不細工な顔は」へいへい。悪かったな、不細工で。生憎こういう仕様なんだ。


「しっかし…、また何で久々知?」
「なんで、って…」


言われても。そりゃ、こちらにも色々あって。言うのがめんどくさいなあと感じながらも結局、俺は全て話してしまったわけだ。
全てを聞き終えた三郎は「ふむ」と呟いて何かを考えて始めてしまった。
間をたっぷり開けて、そして一言。


「久々知ってやっぱ見えてるんだな」


失礼なやつだな。まあ、自分も本人に直接似たようなことを聞いたのだからあまり言えないのだが(どちらこというと本人に直接聞いた俺の方が失礼な気がする…)。まあ、三郎も気になっていたんだろう。一年のときから久々知に関する噂を。

「久々知にはこの世の物ではない物が見える」その噂を聞いたときにはぞっとした。まだ一年生だったのも少なからずあるのだろう。五年生になった今じゃ噂も事項がかかって消えかけていた(でもきっと、久々知の中じゃ、消えてなかっただろう、な)。
しかし、俺が話した久々知の世界は、きれいだと思った。
久々知から聞いた金魚はまさしく先日までうちの生物委員会が飼っていたフクちゃんである。一年生がお祭りで取ってきた金魚で、大事に育てていた。過去形なのは、フクちゃんはこれまた、生物委員会が飼っていた猫に食べられてしまったからである。チーン。なむなむ。
一年生はそりゃみんな大泣き。お墓まで作ったが、猫を許してやれてないらしく、猫を見ると睨み付ける始末だ。
まあ、生き物を多く飼ってる以上、なくはない話しではある。けれど一年生には少し酷だったようだ。
ずいぶん話しは脱線してしまったが、あの久々知の真っ黒な瞳に、フクちゃんの橙色が映っていたとしたら、それはなんだかとてもきれいだと、俺は思うのだ。それをみんな久々知を気持ち悪がってたんだな。久々知の見る世界も、久々知の気持ちも知らないで。そう考えると、たまらなく泣きたい気持ちになった。
い組の話しで、当時何を言われて、何をされたか、詳しく俺は知らない。だからこそ、あいつの世界を知らないでとやかく言うのも、あいつを傷つけるのも、気に食わない。


「はあー、自分が情けねえ…」
「ほうほう」
「なんだよ、お前は…」


人がせっかく自分を見つめ直してると言うのに。何を分かったような顔してんだよ。誰かこいつをつまみ出してくれ。雷蔵はいないのかよ。「雷蔵は図書委員の仕事だ。だからこうしてお前の話に付き合ってやってんだろ」そりゃどーも。頼んでないけどね。


「そんな口聞いていいのか?」
「はあ?」
「馬鹿だなあ、八左ヱ門。そういうの何て言うか知ってるか?」


ますますこいつ意味分かんねえーんだけど。もう本当に誰か雷蔵さん呼んできてください。俺じゃこいつは手に終えませーん。


「すきなんだよ、お前は」


………はあ?


「だから、お前はすきなんだよ、久々知が」


突然得意げな顔になってそう言った三郎に分かるように頭から?マークを飛びっきり出す。
すきって?俺が?久々知を?
視線を三郎から、ふと、庭を通る久々知に向ければ、ばちりと目があった。その瞬間に、体がびっくりするほど、あつくなった。
チキショー、絶対三郎のせいだ。
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