何やってもうまくいかねーって時がある。そういうときは何も考えねえのが一番だと言われた。俺もそう思うよ、うん。でもまあ、考えねえようにすると余計考えちまうのが俺ってやつで。こうなるとだめだって分かってるのに、ずぶすぶ深みにはまって抜け出せなくなる。


「あ、花井」


走り込みして息を整えてると、聞き慣れた声が聞こえてきた。地面を見ていた顔を上げれば、アイスを加えながら腹をかく田島がいた。腹を見せびらかすなよ。は?てか田島?ありえない光景にしばらく考える。こんな時間に何してんだよ?小テがあるっつって騒いでたのは何処のどいつだよ?てか、ここら辺田島ん家から遠いはずなんだけど?そんな疑問いっぱいの俺を見て田島がけらけら笑った。「マヌケ面ー」うっせえ。


「つーか、何でいんの?」

行儀悪いがシャツの袖で汗を吹きながら田島に訪ねる。田島の家は学校に近いので、ここら辺で見かけることなんてまずない。アイスを買いにきたとしてもここまでにコンビニぐらいあるだろうに。部活終わってわざわざアイスだけのために遠く行くなんてメンドクセーし疲れる。それなのに目の前の男はにこにことアイスを食べている。元気なのはいーねー。うらやましーよ。なんて、ただの嫌味。悩みなんてもん田島には存在しないんだろうなあ、なんて勝手な想像も膨らんで、ますます田島へ八つ当たりしそうで口を開くのを戸惑う。


「花井に会いにきた!」


にかっなんてどこぞのマンガの主人公だよってぐらい明るい笑顔が夜の道で光り輝く。眩しい。もちろんそれは想像上での話だけれど。つーか、つーか、田島、今なんて?


「花井に!会いに!きたっ!」


いやいやンなでけー声だすな、近所メーワク。さっきと同じことを大声で言い放つ田島は、なんの恥じらいもないらしい。わざわざお前はこんな遠いとこまで、たったそれだけのためにここに来たのかよ。そんなことを考えて、お腹の上ら辺がじんわりあつくなる。田島はそんな俺の腹の上の事情なんか知らねえで、がじがじ食べ終わったらしいアイスの棒を噛んでいた。


「あ、あとこれも渡そうと思ってたんだった!」


何とも言えなくて黙っている俺に、田島は持っていたコンビニの袋を突きつけてきた。「やる!!」中身はアイスだった。多分ついさっきまで田島が食ってたのと同じやつ。青い袋で口を馬鹿みたいにでっかく開けた男がアイス食ってるやつ。これ溶けてんじゃねえの?疑いの目で田島を見ると「これ花井に似てね?」とその馬鹿みたいに口をでっかく開けた男を指差した。いやいやそうじゃねえよ。

「田島の方が似てんだろ…」


いやいや俺もそうじゃねえだろ。何言ってんだよ、俺。でも田島を見れば「似てねーよ」なんて言って笑っていて、もうなんか分けわかんねえけど、俺も笑えてきた。袋開けてアイス見れば、案の定どろどろに溶けてやがるし。


「やっぱ溶けてんじゃねえかよ」
「あ、本当だ」


本当だじゃねえよ。気にすんなと陽気に笑う田島にため息がでてくる。だけどそれもなんだか田島らしくて小さく笑ってしまう。あーもう本当に、ずりいよ、お前。
まだ形の残っている部分を口に入れると、ひんやり冷たさが喉を通る。


「なー、花井」
「んー?あ、落ちた」
「ぜってー追い付いてこいよ。待ってらんねぇから」


ぼとりと地面に落ちたアイスがすぐにアスファルトを濡らす。いや、え?さっき、なんて?すぐさま田島を見ればへらりと笑っていた。「マヌケ面」うっせえっつーの。一瞬、聞き間違いかと思ったが、間違えるはずない。頭の中で田島の声が再生される。ぜってー追い付いてこい。待ってらんねぇから。つまりそれは……


「じゃあ小テあるから帰るわ!」
「お、おい!田島!」


逃げるように背を向けた田島に声をかける。逃がしてたまるか。アイスは完全に溶けてしまって、手はベトベトした不愉快な感覚がある。けれどそんなことは気にしてられない。喉の奥から急げ急げと言葉が急かす。


「すぐ追い付いてやる!抜いてやるよ!!」


決意表明。言ったからには取り消せない。取り消す気なんてさらさらないが。田島がライバルとして認めてくれた。勝手な解釈かもしんねえーけどそうとしか思えない。近所メーワクなぐらい大きな声を出した俺の言葉に田島はやっと振り返った。


「その言葉!忘れんなよ!!」


最後にまた眩しいくらい輝く笑顔を見せて田島は帰っていった。それを俺は見えなくなるまで見送った。
ちらりとアイスの棒を見ると「あたり」と書かれていた。明日にでももう一本もらいに行こう。それでそれを田島にやってやろう。
田島に似た馬鹿みたいに口をでっかく開けた男が頭に浮かんで、ひとり俺は小さく笑った。
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