「え〜〜またカレー?」


今日の晩ごはんはなんだろうなあ〜と鼻歌なんか歌いながらスキップしそうな勢いで家路につけば、玄関から匂うお馴染みの匂い。


「ただいまもなしにそれかよ…お前」


エプロン姿のきり丸がお玉を持って、呆れたように振り返りながら、率直に感想を述べた俺にそう言う。本当に呆れたように。うわー正直へこむわー。 だけどカレーって…だけどカレーって…嫌いじゃないけどテンションがあまり上がらないんだよなあ。だって昨日もウチの晩ごはんはカレーだったはず…


「カレーは二日目がおいしいんだよ」
「そうは言ってもきり丸さん〜〜」


カレーは二日目がおいしいったってもうすごいペースでカレーじゃんウチ。怒涛のカレー攻めってくらいカレーじゃん。たまには違うもの食べたいなあ。なんて。俺はひっそり思うわけですよ。もっとね、もっとね、焼き肉とかさー?


「はあ?焼き肉?馬鹿言うな。ンな贅沢お前にできるか。ほら、さっさと手を洗ってこいっ!」


まるで犬を扱うかのように、手で俺をはねのけて、きり丸は白い大きめのカレー皿に盛り付け初めてしまった。そういうところはちゃっかりしてるなあ、きり丸は。二人分カレーをよそうきり丸の背中をじと目で見ながら、渋々俺は手洗い場へと向かった。
向かった手洗い場の窓からは隣の家の焼き肉のいい匂いがこっちに来ている。あ〜焼き肉かあ。うらやましい。やりくり上手で料理上手のきり丸の作るカレーはすっごくすっごくおいしいのは、俺が一番ようく知っているけれど、怒涛のカレー攻めされてしまっては、ほくほくで柔らかな鮭の切り身とかパラパラのチャーハンとかクリーミーなカルボナーラとか食べたいなあとか思ってしまう。一昨日食べたハンバーグが懐かしいぜ…。
久しぶりに外食もいいかもなあなんてぼんやり思うが、きり丸は外食を嫌う。なんでも高いし料理が人の暖かみがなくて寂しいんだとよ。俺は普通においしいと思うけどな。だけどちょっと、きり丸の言う、人の暖かみがなくて寂しいはきり丸があんまりにも、せつなげに言うもんだからなんだか引っ掛かってしまうのだ。


「おら何やってんだよ?ご飯できたぞ!」
「あ、おお!」


今まで考えていたものを振り払って、俺はカレーの匂いがするリビングに戻った。
相変わらず文句の付け所がないくらいきり丸のカレーはおいしかった。けれど、きり丸は不機嫌なのか何なのか一度もしゃべらなかった。



「…お、団蔵!」


呼ばれて振り向けば、昔からの友達の虎若がネクタイを緩めながらこちらに手を振っていた。随分と久しぶりの虎若の顔に俺の顔も自然と緩む。しっかしスーツ似合わねぇ〜!がたいのいい虎若にはスーツは少し窮屈そうだった。最後に見た虎若はラフなジーンズにTシャツだったから余計そう思ったかもしれない。あの時もこんな夕暮れ時で、コンビニに立ち寄った虎若と、エロ本立ち読みしていた俺がばったり会ったのだ。そのときの気まずさったらもう…。あれ以来、立ち読みはしていない。堂々と買うようにしている。もっとも、今の俺にはエロ本なんて要りませんけどね。


「虎ちゃんじゃん」
「ぶっ!お前、虎ちゃんって」


懐かしい呼び名を呼べば、虎若が盛大に吹き出した。それにつられて俺もでっかい声をあげて笑う。街中でごつい男二人がうるさいぐらい声をあげる光景などさそかし迷惑だったに違いなかいが、今の俺には目の前の男くさい顔をくしゃくしゃにするくらい笑う友達の顔しか見えてなかった。どーもうるさくしてすいませーん。


「なあ、久しぶりだし飲んでかね?」
「おー!いいねえ」


そう言った途端に、ばっときり丸の顔が浮かんだ。朝に「今日もカレーだから」と冷ややかあ〜な目で見てきた顔が浮かんだ。多分昨日カレーに文句をつけたの怒ってンだろーなあ。あの目は怖かった。心臓が冷えるって正にああいう感覚だぜ。でもこの誘いは断りたくない。久しぶりに虎若に会えたことだし、積もる話もある。それに焼肉屋に言ってビールを引っかけたいという気持ちもある。カレーが三日も続けば辛いんですよ。若いんですもの。肉が食べたい!!
きり丸には連絡入れればいいよな。きり丸も頭が固いわけではないし久しぶりの友人と飲むくらい許してくれるだろう。よーし、そうと決まれば焼き肉!


「あ、ちょっと連絡入れてからでいいか?」
「あ?何なに〜?団蔵くんたら家に誰か待ってんの〜?」


茶化すように、にやにやしながら虎若が肘で俺を小突く。もーこういう虎ちゃんはメンドクセー。虎若の肘の攻撃を受けながら、自宅に電話番号を探す。えっとー?つい最近iPhoneに変えたばかりで手つきは覚束ない。


「なあー、変なこと聞くけど団蔵ってきり丸といんの?」
「は?」
「その電話かけようとしてんのってきり丸?」


虎若は単純に気になっているような目をしていた。別に隠していたわけじゃないけれど、俺ときり丸が一緒に住んでることは誰にも言ってはいなかった。だからどうして虎若が知っているんだろうか?きり丸もあまりこういう話題を言い触らすような奴ではないはずだ。


「当たりか」


どう反応しようかと黙っていると、そんな俺を見て、にかっと爽やかな笑顔で虎若がそう言いった。これを見てさぞかしこいつはモテるんだろうなあと思った。こんな感じのいい爽やかな笑顔作れるのは虎若ぐらいだよ。いやらしさがまるでない。


「この前スーパーできり丸で会ったんだよ。そのとききり丸が大量に買い込んでるもんだから聞いたんだよ。そしたら『どっかの馬鹿はカレーがすきだから』って言うから」


どっかの馬鹿ってお前だろ?そう付け足して、虎若がさっきまでの笑顔を大人な顔に変える。虎ちゃんたらそんな顔までしちゃうのね。もう抱いて〜!あ、これはさすがにジョーダン。なしなし。つーか、馬鹿って、あいつ。人がいないと思って。……あー、もうまじですきだわ。
そう言えば俺があいつの手料理で一番すきなのはカレーだった。自分のことなのにすっかり忘れていた。だから昨日、きり丸は不機嫌だったのだ。まさか俺って本当に馬鹿?
その結論が出ると、無性にきり丸のカレーが食べたくなってきた。ちょうどのタイミングで腹の虫がないた。そっかそっか〜、お前もカレーがいいんだなあ〜


「悪い、虎若!やっぱ俺カレーがすきだ!だから今日は帰る!」


早口でそれを告げると、一本早い電車に乗るために足を速く進める。後ろで虎若は多分困った顔をしたんだろうけど確認はしてない。それより足を進めることに集中した。カレーは三日目がおいしいのだ。それを言ったらきり丸は何て言うかな。
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