「やさしさをくれる人の隣で笑いなね」
君は何気なしにそう言った。お酒が入っているからかは知らないが、いつもと違うゆるりとした声だった。目を伏せている君の髪を、冷たい夜の風が撫でていく。
「お前はそうあるべきだよ」
やさしさをくれる人の隣、口の中でさっき言われた言葉を繰り返す。それが君の最後に贈る言葉だとしたら、
「やさしくしなきゃじゃなくて、やさしくしたいと思える人の隣で、」
そこで雷蔵は話すのを止めて、酒に手をつけた。
私は雷蔵の言葉を頭で何度も流しながら、やっぱり納得いかなくて、奥歯を噛み締めた。
やさしさをくれる人の隣で笑いなと言うのであれば、君がずっと、永遠に、私のそばにいてくれればいいのに。
こちらを向いた雷蔵の顔は笑顔だったので、私はやっぱりそんなことは言えないのだった。