×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


 幼馴染みとの約束を果たすため、がむしゃらに鍛錬に打ち込み、とある理由から海に出て、ちょっとしたトラブルで故郷の島に帰れなくなって、まあちょうど良い機会だからとそのまま海を放浪し、またひたすらに鍛錬に打ち込んで、生活費のために手配書が出ている海賊や山賊を狩る日々を送っていた。
 一時期一緒に行動した賞金稼ぎ仲間ーーそいつら曰く、自分達は弟分だと自称していたがーーと別れた後もそれは変わらず、最近じゃ『海賊狩り』なんて呼ばれるようになって、海軍の連中にも顔が知られるようになってきた。

 その矢先の出来事だ。
 食料を調達するために上陸した島で、町中を我が物顔で闊歩する狼が子供に襲いかかるのを見て、咄嗟に抜いた刀でその狼を切り捨てたところ、どうやらその狼はその島の海軍基地に所属する大佐の息子のペットだったらしく、怒りを買ったおれは傘下の海兵達に包囲され磔にされてしまった。
 愉快な髪型と名前の息子がおれの前に現れ、「一ヶ月間飲まず食わずで過ごしたら解放する」と条件を出してきて、それを呑み、約束しろよと念を押したところでーーようやく、おや、と違和感を覚えた。
 一連の流れに覚えがあるような、デジャヴを感じるような……そう思いつつ、しかし決定的な答えは浮かばなかったため、その時は気のせいかと流したのだが。
 磔にされて九日目、流石に意識が朦朧としてきて、後約二十日間を耐え切れるかと自問自答を繰り返していた時、麦わら帽子を被った男が刑場を覗いていることに気づき、丁度いいから縄を解いてもらおうかと声をかけようとしてーーその顔をよく見て、思考が止まった。
 どこかで見覚えがある。あり過ぎる。手配書で見た顔だ。いや、この頃はまだこいつの手配書は出ていないはずで、ならばどこで見たのか、その前に、この頃とはどういう意味かと思考回路がぐるぐる回ってーー唐突に、雷が落ちたような衝撃が脳みそを襲った。
 同時に脳内に流れ込んできた数十年分の誰かの記憶と知識。限界過ぎて気が狂ったかと思ったが、そうじゃない。
 これはおれの記憶だ。
 おれが今のおれになる前に生きた数十年の記憶。
 所謂、前世というやつの。

 唖然、呆然、絶句ーーそして自分が何者であるかにようやく気づく。
 おれが、あの『ロロノア・ゾロ』であることに。





 あの時の衝撃たるや、ギリギリで保っていた意識がぶっ飛びかけたのをなんとか耐えきったものの、今後の身の振り方を悩むおれの目の前までやってきた主人公ーールフィが、あろうことか無言のままおれの腕の縄を解こうとしたため、慌てて制止した。何で止めるのかと不思議そうにするルフィに大佐の息子ーー確かヘルメットだかメッポだかーーとの『約束』の話をして、納得がいかなそうなルフィをなんとか言い包めようとする中、ある疑問が浮かぶ。
 果たしてこんな展開だったか、と。
 人気漫画だったから有名な登場人物と大まな流れを知っているだけで、生憎と細かい内容は覚えていなかったが、ロロノア・ゾロが磔から解放されるのは一悶着があった後で、確かルフィが刀を取ってきてからだったはず。
 あとはあの時狼から助けた子供が刑場に入ってくるだとか、砂糖と砂で衝撃的な味になったおにぎりをバリバリ食うだとか、ロロノア・ゾロが自由になるまでにそういった過程があったはずだが、それらを諸々飛ばしてルフィがおれを助けようとしているこの状況は何なのか。
 おれがロロノア・ゾロになってしまったからズレが生じたのかと思ったが、しかしすぐに例の子供がおにぎりを持って刑場に入ってきて、七光りのバカ息子がやって来て、それからは所謂原作と同じ展開になったため、特に悪影響はなかったし、ゲームで言うところのバグのようなものかと気にしないことにしたーーその時は。

 原作のロロノア・ゾロと同じようにルフィに助けられ、助けて、新たな仲間が増えるまでの二人旅が始まる。
 ここでまた疑問が浮かんだーーというか、今に至るまで解決しない疑問が生じた。
 何故か、ルフィがやたらとおれにくっついてくるのだ。
 その身に宿した悪魔の力をフル活用して腕と足をグルグルとおれの体に巻きつけたり、剣の手入れをするおれの背中に乗っかってきたり、それはもうベタベタと。……原作のルフィってここまでスキンシップ過剰な奴だったか?
 いや、わりと初対面の相手にも距離感がバグってる奴だったとは思うが、それにしたってロロノア・ゾロにここまでベタベタくっついていただろうか。
 まるでお気に入りの人形を離さない子供のような、そんな感じでーー。



「ナマエー? なにぼーっとしたんだ? 腹減ったのか?」
「そりゃあお前だろ、ルフィ。さっきから腹の虫がうるせえぞ」
「そろそろおやつの時間だからなー! 今日のおやつはなんだろうな!」

 今だってそうだ。
 背中に重りを乗せて腕立て伏せでもしようとしたらルフィがやって来て自ら重り役に志願してきたのだ。
 じっとしてるのが苦手なくせに何故、と思ったが、まあやってくれるのは有り難いし、最悪途中でどこかに行かれても別の重りを乗せればいいかと了承し、ルフィを背中に乗せた。その状態で腕立て伏せを始めてからそれなりに時間が経ち、回数は五千をとうに越えたが、ノルマは一万回なのでまだ先は長い。
 背中のルフィは意外と大人しくしている。時々こうして会話を飛ばしてくるくらいで、暴れるようなこともなく、じっとおれの背中に張り付いているだけ。
 千回目に達した辺りで一度暇じゃねえのかと訊いてみたが、ゾロを見てるだけで楽しいから暇じゃねえと返ってきた。ただ腕立て伏せをしているのを見るだけのどこが楽しいのかと思うが、邪魔されないなら良いかと流してそのまま続行し、今に至る。
 しかしそろそろ限界か、と軽く首を動かして、横目でルフィを見る。先程からルフィの腹の虫が煩いくらい鳴いているし、おやつの時間だということは、コックが作ったおやつを食いに下に降りるはず。おれは甘いものはあんまり食わねえからこのまま鍛錬を続けるが、腹が減ってるルフィがおれに付き合ってここに残るはずがない。
 そう思い、「下に降りるならそこにある重りを背中に乗せて行ってくれ」と言ったのだが、当のルフィはおれの背中に張り付いたまま首を傾げている。

「なんでだ? おれ下に行かねえぞ?」
「あ? 八つ時なんだろ」
「そうだけど、まだ下に行かねえ。だってナマエ、筋トレ終わってないだろ」
「? ああ、まだ後半分残っちゃいるが」
「ならナマエが終わるまで待つ! そんで、終わってから一緒に下に行くぞ!」
「はあ? 腹減ってんだろ」
「腹は減ったけど、ナマエと一緒に食いてえから我慢する!」
「いや、おれは食わねえし、そもそも他の奴らに食われるんじゃねえか?」
「ならサンジに持ってきてもらってここで食う!」
「あのコックがわざわざ持ってくると思うか?」
「なら聞いてみる!」

 ああ言えばこう言う、といった感じでおれの言葉に返答していったルフィは、聞いてみる、と言った瞬間起き上がって思い切り首を後ろに伸ばし、開いていた窓から頭を出して、声を張り上げた。

「お〜〜〜い!! サンジ〜〜〜!! おれ今日ここでおやつ食うから持ってきてくれ〜〜〜!!」
「ふざけんなクソゴム!! 食いてえなら自分で取りに来い!!」
「ナマエの背中に乗ってるから無理だ〜〜〜!! 頼んだぞ〜〜〜!!」
「なおさらふざけんなーーー!!」

 一通り叫び終わってからタイミング良くばちんっと音を立てて伸びた首が元に戻り、その流れでまたおれの背中に張り付くような態勢に戻ったルフィが、「これでオッケーだな!」と笑う。

「いや、オッケーじゃねえだろ」
「なんだかんだ言ってサンジは優しいから持ってきてくれるぞ!」
「あー……まあ、確かに……?」

 原作でどうだったかは覚えていないが、確かにこの世界のコックはなんだかんだで男にも優しいーーというか、ルフィに甘い。
 こうしておやつを作った時なんかは特に、野郎共は自分で取りに来いと言いながら、ルフィがおれの側から離れないと知ると文句を言いながらもおやつを持ってきてくれることが多い。せっかく作ったもんを無駄にしないためだとかなんとか言っているが、別に後からだって食べられるし、なんなら他の連中が綺麗に完食してくれるだろうに。
 やはり船長だから多少の特別扱いでもしているのだろうか。それにしては、知識の中のコックはルフィが船長だからといって特別扱いせず、他と変わらない対応をしていたように思うが……。

「サンジはおれの味方だからな〜。色々と協力してくれてんだ」
「味方? 何の話だ?」
「ししし! ナマエにはまだ内緒だ!」
「?」

 ルフィの発言に新たな疑問が浮上したものの、歯を見せて楽しそうに笑ったルフィは、それ以上何かを言う気はないようで、満面の笑みを浮かべたままおれの首に腕を回してぎゅうぎゅうと抱きついてくる。先ほどよりも密着度が更に増して若干動きづらい。しかし離れろと言っても離れる気配はなく、むしろ更に力を入れて抱きついてくるため、これ以上余計なことを言うと鍛錬に支障が出ると判断し、そのまま腕立て伏せを続行した。

 それから数分経ち、ルフィが言った通り今日のおやつをわざわざ持ってきたコックが、おれと背中に乗って抱きつくルフィを見てゲロでも吐きそうな顔で「野郎同士のイチャイチャなんて見せるんじゃねえ!」と吐き捨てたものの、ルフィは相変わらずニコニコ笑ったまま「ワリィなサンジ! でも分かってただろ?」と返し、それに対してコックも「分かっちゃいても実際に見せつけられると精神的ダメージがでけえんだよ!」と当たり前のように返したのはどういう意味なのか説明して欲しい。
 おれだけ蚊帳の外ってどういうことだ。そんな気持ちで二人を見たら、「ナマエはドンカンだからな〜」「鈍感属性は女の子に付与されてるのが可愛いのであって、テメェに備わってても気持ちワリィだけだぞ」と訳の分からない中傷を受けた。心底納得いかねえ。