にんじん、きらい?


!閲覧注意
※以蔵√中盤で届く以蔵からのメールネタバレあり
※ギャグ
※でも笑えなかったらゴメンナサイ
※何でもアリな方のみドウゾ↓


















それは年越しから数日たった、ある晴れた日の未の刻。



「ダメぇぇぇーーっ!食べちゃダメぇぇ!以蔵ーーーっ!」



その日は特にこれといった予定もなく過ごしていた面々が、縁側から寺田屋中に響き渡ったハルの切羽詰まった声音に何事かと集まってきた。
無論、その中には俺もいるのだが・・・



「以蔵ーっ!嫌ぁぁ!食べちゃダメぇぇぇー!」



自然と皆の視線が、俺と、皆の中心で叫ぶハルとを交互に動く。
悲痛な声を上げているハルの顔を窺うとその目は固く閉じたままで、両の拳が自身の着物の裾を握り締め震えていた。
冬場にしては穏やかな陽光が降り注ぐ縁側で、慌ただしい年末年始の疲れが出たのか・・・どうやら居眠りしているらしいハル。
どう見ても、完璧に寝言だ。
当然皆もそれは分かっている筈だ。
なのに、俺に向けられる皆の視線が刺すように冷たいのは何故だ。
武市先生にまで『お前が何か仕出かしたのか』と問い詰めるような視線を投げかけられたものだから、俺はその場の居たたまれない空気に唇を噛みしめた。

こいつの寝言で何故俺がこんなに申し訳無い気分にさせられねばならん!
俺は断じて何もしていない!
こいつの飯を横取りして喰った覚えもない!!



「・・・おい、起きろ!」



沸々と湧き出てくる怒りに任せてハルに向かって怒鳴ると、弾かれたように大きな瞳が瞬いた。



「・・・・・・・・・・・・・・・え?」


「ハル、いったいどうしたがじゃ?おまんの声で皆が集まってきたがぜよ」


「姉さん、どんな夢見てたんスか?」


「ハルさん、以蔵に何かされたのかい?」


「せ、先生っ・・・!」


「あ、あれ?!いぞー?!・・・無事??」



寝ぼけ眼のハルに皆が心配そうに声をかける中、俺の存在に気付いたハルが訳の分からん質問をしてくる。

『・・・無事??』って何だ!
それは俺の台詞だ!
お前の頭の方が無事なのか、と!!



「っ!お前っ!一体どんな夢を見てたんだ!お前の変な寝言の所為で、身に覚えのない嫌疑が・・・」


「わ、私?!」


「以蔵に向こうて『食べちゃだめぇぇー!』とか叫んどったぞ?」


「・・・・・・あ」



龍馬がハルの口調を真似て言った台詞を聞いて、一瞬ポカンとしたハルが考えを巡らせながら表情を曇らせた。
漸く理解したかと思うと、パッと頬を赤く染めて両手で顔を隠そうとするハル。

何故赤くなるんだ、俺にまで赤面が移るだろうが!



「ハルさん?やはり以蔵が何か・・・」



やはり、とはなんですか先生!



「・・・・・・あの、は、恥ずかしいです・・・寝言で叫んでたとか・・・」



おいっ!そんな事を今更恥ずかしがっている場合か!
何でも良いから早く俺の濡れ衣を晴らせ!



「・・・・・・叫んでいたというのは龍馬が大袈裟に言っているだけだから安心なさい。それで、何の夢を見ていたんです?」



先生がハルを落ち着けようとニコリと笑顔で嘘を吐かれ、ハルはまんまと促され口を開いた。
先生はやはり偉大なお方だ。



「・・・・・・以蔵が」


「以蔵が?」


「年を越す前に克服せねば・・・とか言って」


「・・・?」


「真っ青な顔して大量の人参を食べようとしてたんです・・・」


「・・・・・・・・・」


「夢だったんだ・・・良かったぁ」



皆が沈黙する中、呟いてホゥッと安堵の笑みを漏らすハル。

・・・こいつは、そんな夢で、あれほど悲痛な叫びを・・・

・・・馬鹿か?

そう思うと同時に、人参如きで夢の中でまで心配されている自分が情けなくなった。



「い、以蔵、おんし、そんな事でハルに心配かけたらいかんぜよ」


「ホントっス、人参くらいで・・・人騒がせっスねえ」



我ながら情けないとは思うが、薄ら笑いを浮かべたこいつらに改めて言われると腹が立つ。



「な!ゆ、夢の話だろう!人騒がせなのはコイツ・・・」


「以蔵」


「は、はい!・・・?」



声を荒げた俺を制するように武市先生に名前を呼ばれ慌てて返事をすると、何故か先生の表情が険しくなった。



「・・・お前、人参が嫌いなのか?」


「え?あ!!いえ・・・その」



武市先生は表情に似つかわしくない静かな声で問うて俺に視線を向けていらっしゃる。
思わずしどろもどろになった俺に、龍馬と慎太が面白がるような視線を向けてくるのが分かる。(あいつら・・・後で、斬る!)
その後ろをチラリと見やると、両手を合わせて必死な顔で『ごめん』と唇を動かすハルがいた。

・・・全くあいつは!!
あれ程、食べ物を粗末にするのは先生の流儀に反するから人参の件は黙っておいてくれ、と慣れん文まで書いて頼んでおいたというのに!!
俺がこれまで必死で隠してきた意味が全く無いではないか!!



「以蔵。に・ん・じ・ん、が嫌いなのか、と問うている」


「・・・は、はい!いえっ・・・あの、それはですね・・・」



武市先生の一語一語言い含めるような問い掛けが、俺の焦りに輪をかける。
慌てて弁解しながらも、これ程騒ぎを大きくしてしまったのが己の人参嫌いにあるというのが何とも不甲斐なく・・・
疾うに年は明けてしまったが、
今年中には意地でも人参嫌いを克服してやる!
・・・と、心の中で新年の(無謀な)誓いをたてた俺だった・・・









にんじん、きらい?



好きか嫌いかと問われれば決して好きとは言えませんが、嫌いと言うと語弊があると言いますか・・・(しどろもどろ)





110111
title:「幕恋事情で18のお題」様より拝借
130124/加筆修正




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