僕はいつだって幸福でいたいのだ。身体の黄金をぺりぺりとはがして分け与えるなんていう、下らない子供だましの幸福ではなく、暖かい毛皮にくるまれて暖かい場所で眠り暖かい食べ物を食べるように、幸福でいたいのだ。自分の汚ならしい面をさらけ出し、他人のために餓えや寒さで死ぬなどいうことは、あってはならないのだ。

(僕はそう信じていたし、誰よりもアツヤが、それを望んでいた)
(鉛の心臓だけが祝福される、ただそれだけの幸せなんていらない)

「ねぇ、そめおかくん」

夏の日差しの下にあるグラウンドは僕らがスパイクを履いた脚で跡をつけるのを待ち構えているかのように輝いて見えたのに、草木も眠るような闇の中で夜の星明かりを浴びるとやけにおとなしく見えた。スパイクではなく、お気に入りのスニーカーでそれを踏みつけると、僕に着いて来ていた彼の足音が柔らかく聞こえた。

「一緒にサッカーできるのも、幸せだねぇ」
「…も、ってなんだよ」

不機嫌な彼の声は面白いほどに耳に馴染んで、僕は考えたくもない昔のことを思うのだ。彼が僕を励ましてくれた時のことや、僕がサッカーをやれなくなった時のことや、初めて会ったときに彼とやったサッカー勝負、とか。
それらはあのときの僕には幸せだなんて思えなかったこと。幸福なんてちっとも考えなかった時のはなし。でもきっと、幸福だった時のはなし。汚ならしく強さに執着していた僕の姿のこびりついた思い出が、今は幸福に思えるのだ。あんなにも、惨めだった時間が。それが僕にはわからないことだったし、怖いことだった。

「そめおかくん、さぁ、哀れまれて星座になったものたちって、幸せだって思えるのかなあ。あの星とか、あの星とか、すべて杭のようになって、磔にされているみたいに思うんじゃあないのかなあ」

「負けたく、ないよね。勝って飾られたい、そうだよね」

そりゃあ、と小さく聞こえた彼の声をかき消すように、わざと足音を立てて歩いてゆく。グラウンドの真ん中は夜空が広く広く見えて怖かった。吸い込まれて磔にされる、そんな妄想が脳の片隅で産声をあげていたのを、僕は締め殺した。

「絶対、ふたりで世界一になろうね、そめおかくん」

僕は本物の幸福を得る。大地に這いつくばったりも、空に磔になりもしない。あの星の光を奪うほどに輝いて見せるのだ。
もしも、それができなくても、ひとりぼっちでゴミのように捨てられたりなんてされない。ふたりで、惨めに死んでやる。
僕は悲しい王子になんて、絶対にならない。


(惨めな姿をさらすなら、せめて、君と一緒に磔刑になる。君と僕の記憶にしてしまえば、不思議なことにそれは僕の幸福かもしれない)






「深夜のグラウンド」「幸福になる」「星座」
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