「ただいまー。」
「「おかえりー!」」
任務から帰宅し、リビングのドアを開ければ小さい金と黒の頭が、くるりとこちらに向いた。長い前髪で目元が覆われた、あどけない顔の子供である。
「ミッド、ヌーン。ただいま。」
ストレートの姿を見ると、2人はだんだん笑顔になっていく。
「わぁー!ストにいちゃんが、女の子になってるよ!ヌーン!」
「ホントだね、ミッド!ストねえちゃんって呼ばなきゃ!」
「それは止めてく」
「「ストねえちゃーん!!」」
「・・・・・・はぁー。」
キャイキャイと騒ぐ小さい金と黒。それに対してため息をついて肩を落とすストレート。
そんな兄を横目に見てから、スクロールは金と黒に話しかけた。
「なぁチビ共、リーダーいるか?」
「「チビじゃないもん。バカNo.2のバーカ!」」
「いや、チビだろ。」
二人はスクロールの言葉に頬を膨らませると、金の方が口を開いた。
「むー・・・。確かにちっちゃいけど、ボクにはミッドナイト」
次は黒の方が口を開く。
「ボクにはヌーンっていう」
「「名前がちゃんとあるんだからね!」」
最後に2人はしっかりと声を揃えて言い放った。
「わかってるっての。しっかし、ホントお前らって、息ぴったりだよな。」
「だって双子だもん!」
「だもん!」
「双子でも俺とアニキはそんなぴったりにならねぇよ。それよりも、リーダーいるか。」
「「いないよ!」」
その返答を聞くと、スクロールは兄と同じように肩を落とした。
「・・・・ぜってー今のやり取り、任務よりも疲れた気がする。」
「スク、リーダーへの報告は任せた。俺は着替えてくる。」
「りょーかいー。」
ストレートはそう言うと、颯爽と二階へと駆けていった。よほど女装をどうにかしたかったらしい。
「あーあ、行っちゃった。」
「行っちゃったー。」
ミッドナイトとヌーンは、もっと見たかったと言わんばかりに呟き、口を尖らした。
「そういや、お前らなんでこんな時間に起きてんだよ。仕事はねぇはずだろ。」
ストレートとスクロールの任務が終了してから数時間ほどしか経っておらず、今は12時を廻った真夜中である。
まだ齢十の幼い2人には深夜に仕事をあまり与えないのが、うちのリーダーの方針。
それなのになぜ2人がまだ目を開けているのか、スクロールはわからなかった。
「やっぱバカNo.2だなー。お仕事じゃないのにおきてる理由なんてないと思わない?」
「リーダーにね、このまえのね、にげられたてきを今日中にたおしてきてほしいって言われたの。」
2人は、どこか哀れに思う空気を醸し出しながらスクロールを見上げる。
2人から向けられるものを十二分に感じたスクロールは青筋をたて、眉を吊り上げた。
「だぁーー!!!バカNo.2で悪かったな!わかったからさっさと仕事行け!!」
「「はぁーい!いってきまーす!!」」
スクロールの怒声を物ともせず、元気よく2人は暗闇へと身を投じた。
「・・・ったく。今度保護者役に一言言うか。そうだ、リーダーに報告しねーと。」
リビングに置いてある電話の受話器を取り、番号を押す。
先ほどまでの騒がしさとは打って変わり、静けさが漂うリビングに電話の呼び出し音が響く。
3コール目を過ぎたところで、呼び出し音は止まった。
『もしもし、スクですか?』
若い男の声が、受話器越しに聞こえた。
「あぁ、仕事終わったから報告するわ。」
『どうぞ。今ちょうどキリのいいところで終わったので。』
一呼吸置いて舞踏会のとき聞いてきた情報を、頭の中で整理する。
「あいつの情報どおり、ターゲットの男は運び屋だった。組織の名前はリーファン。品物は麻薬で正解。だから言われたとおり捨てといた。」
『ありがとうございます。』
「だけどそこの運び屋は厄介なことに、いくつかのグループに別れてるらしい。今日の男もそのうちの一つのリーダー格なんだとよ。」
『グループの数は。』
「それが、あの男なんも知らねえみたいで、グループの数だけじゃなくて、依頼主や取引先が誰なのかすらわからなかった。」
今思い出してもイライラする。
どれだけ尋問しても肝心なところは知らないの一点張り。
これだけしか得られないなんて、失敗したのと同じじゃないかと。
『そうですか・・・。でも、グループに別れているということは、そのグループを統べる者が上にいるはずです。依頼主等はそのトップに聞けば分かることですから、悔しがらなくても大丈夫ですよ、スク。』
「な、俺は別に、悔しがってなんかないんだけど。」
最後の言葉に、思わず先ほどのミッドナイトとヌーンのように口を尖らせて反論する。
『おや、思ったより情報を得られなくて悔しがってるように感じますが。違いましたか?』
「うぐ・・・。」
正確に分析するリーダーはさすがだと、スクロールは胸の内で呟く。
情報のことも、自分のことも。
「…まーいいや。そんじゃ、これからどうするんだ?」
『また彼に、詳しい情報を集めてきてもらおうと思います。なので、何日かはストとスクはオフにしてあげます。』
「オフ?他にやることなんかないのかよ。」
『じゃあ、しっかり調整しておいてください。あと、報告書を書くように。』
「ちぇー、わかったよ。」
『ふふ。では、よろしくお願いしますね。』
そう言われたのを最後に、リーダーとの会話は終わった。
「調整かー。どうすっかなー。」
スクロールはソファに寝転がり、調整の仕方を考える。
あれこれと考えていたが、なかなか良案が出ない。
目蓋も重くなってきた気がする。
「えーっと、アニキと対戦するだろ。で、そんときにいろいろわりーとこ見つけて、それで・・・・。」
そのままソファで眠ったスクロールをストレートが見つけ、叩き起こすのはしばらく後の話。
(いってぇ!?)
(こんなとこで寝るなバカ。)
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