せっかくの満月が雲に隠れた今宵。

広大な屋敷の広間では、燕尾服を着た者やきらびやかなドレスを着た者で群がり、端には鮮やかに盛り付けられた料理が並べられている。天井には、落下するのではと思うほどに装飾された、重みのあるシャンデリアがキラキラと輝く。
他にも、何個ものワイングラスを乗せた盆を持ち、しなやかに動くウェイター。
客の対応に追われるメイド。
厳重に周りを警備するボディーガードや警察。

そして広間の中心では、バックで演奏する音楽に合わせて踊る数組の男女。


そう、ここでは富裕な者達が集まる舞踏会が催されていた。


演奏されていた曲が終わると、周りからは程よい拍手が起こる。踊っていた者達は人混みに紛れていき、今度は違う男女の組が中心に出てくる。
そして演奏が始まれば、また踊りが展開される。


「失礼、私と一曲いかがですか?」

ある男が、一人の少女とも言えるような女に声をかけ手を差し伸べた。
その女は、全体は黒髪だが耳の前だけは白髪で、右目には十字模様を施した眼帯がされていた。
女は小さく笑うと、差し伸べた手に自分の手をそっとのせた。

ちょうど曲が終わり、入れ替わりの時間となる。

二人は踊り場の中心に行き、手を組み合ってアイコンタクトをすれば、程なくして演奏が始まった。
男のリードに女は遅れることなくステップを踏む。優雅なクラシックに合わせ、ゆったりと二人は踊り続ける。
その流れは、会ったばかりの人物同士のものとは思えないほど美しく、観客や他に踊っていた者達まで二人に目を奪われていた。


演奏が終わり、踊りが止まると、今日一番大きな拍手が広間に響いた。
観客に向かって一礼をすると、別れ際に女が小さな紙切れを男にそっと渡した。
男はその紙切れに書かれていた内容を見ると、微かに口角を上げた。



空では、雲に隠れていた満月が静かに顔を覗かせていた。

踊り終えたあと、男は広間から出て屋敷の奥にある宿泊棟に向かっていた。
長い廊下を渡り、一番奥の部屋に着くと2回ほどノックをする。

すると、先ほどの女が中から現れた。部屋の中は暗く、光は月明かりが窓から差し込んでいるのみであった。女は男を見ると、誘いを受けたときと同じように小さく笑い、男を部屋に招きいれる。
「会ったばかりの男に部屋の番号を書いた紙を渡すなんて、見かけによらず随分と積極的ですね。」
男は厭らしい笑みを浮かべながら、暗闇の中で佇む女性の肩に手を置き、じわりとその体をベッドへと近づける。
月明かりに照らされた女の顔は妖艶に光り、男をさらに魅了させた。



「ぐぅっ!?」
突如、誰かが男の首を背後から強く掴んだ。

「だ、だれだ・・・!?」
「ごーくろーさん、アニキ。」
「な、にっ!!?」

男は声のトーンで少年だと悟るが、それ以前に男は背後の少年の言葉に、聞き捨てならない言葉があったのを聞き逃さなかった。

「全くだ。」
「がはぁっ・・・!!」

アニキ、そう呼ばれた少女は低いトーンで一言呟くと、男の鳩尾を勢いよく蹴り、間を取った。
少女は一つ大きなため息をつくと、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「なぜ俺はいつもこんな役目なんだ。」
「鏡見たらわかると思うぜ?つーか、そんな顔したらせっかくの美人が台無しだっての。」
「うるさい。」

首を強く掴まれたまま、背後の男と目の前の人物が二人で話をする様に、男はイラつき声を荒げる。

「お、まえ・・・男・・だったのかっ!」

少女、だった少年は男に冷めた目を向けた。

「ふん、騙されるほうが悪い。」
「ぐ・・・お前ら、いったい・・・」

首をなんとかして捻り、背後の少年の顔を横目で見る。
全体は白髪だが、耳の前だけは黒髪。そして左目の辺りには渦巻模様を施した眼帯。先ほど少女と間違えた少年を真逆にしたような存在が、月明かりの下にいた。

「あの世の土産に教えてやる。俺はスクロール。スクロール=クリューガーだ。そんで、そっちが俺の双子のアニキのストレート。」



「俺たちは、『フィア・リーパー』だ。」



その言葉を聞いた男は、目を見開いた。

「なん・・・だと・・・!?あの、フィア・リーパーだと・・ぐっ!?」
首をより強く掴まれ、息が詰まる。
いまだに首から手を離さない少年―スクロール―は、その腕から黒いもやを出すと、残酷に言い放った。


「さぁ、お前の組織のこと、お前の持っている情報、全部もらうからな。・・・あ、そうそう。この部屋、いろんな意味で完璧な防音壁になってっから、叫んでも誰にも聞こえねーよ。」


広間ではまだ舞踏会が続いており、何組もの男女が踊っている。
料理は空になってきたが、まだ手に取る者はいるようだ。
ウェイターとメイドは動き回り、警備体制も相変わらず。
最初となんら変わりのない、舞踏会の光景である。
先ほどと違う点といえば、忙しなく動き回る男の集団がいることだろうか。

「今度、リーダーに頼んでみよう。女装任務止めてくれって。」
「あー・・・無理だと思うけどなぁ。」
そんな舞踏会の様子を、ストレートとスクロールは上の階から見物していた。
「なら、お前もやってみろ。双子なんだからいけるだろう。」
「いや、俺おしとやかな動作とかできねーし。」
「そんなの、適当にやればいいだけだ。」
「それが出来ないんだっての。つか、やりたくねえ。」

ストレートは小さく息を吐くと、後ろにある窓を開ける。

「任務も完了したことだ、行くぞ。それに・・・早く着替えたい。」
「へいへーい。」

二人は窓の淵に足をかけ、そのまま屋敷から飛び降りて行った。




これは、世界を裏から変えるために戦う者達の物語である。


(さっき、あの世の土産と言っていたが、それを言うなら冥土の土産だろ。)
(は?なんでメイドが土産持ってんだよ。)
(・・・・・・。)



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