3 誘拐的勧誘


やっと放課後になった。
本気で疲れた。なんで初日にここまで疲れなきゃいけないんだ。

椅子に座ったままぐっと伸びをする。
今日はもうさっさと帰ろう。課題もないし。帰って紅茶でも飲みながらゆっくりすごそう。



ガラッ


「…ウス。」


そういえばまだこの間作ったザッハトルテが残ったままだ。ラッキーだな食べよう。


「……椎名…先輩…、一緒に…来てください…ウス」


ついでに今日の夕飯は…昨日のポトフの残りでいいか。あ、肉じゃがも残ってる…。統一感ない夕飯だがまぁいいだろ………って、え?


『……私か?』


誰だこいつ、初対面…だよな。
てか無駄にでかい。


『あー…すまないな。これから予定があるから明日じゃ駄目か?』


なぜならザッハトルテを食べたいから。
…ってなんかかなり困った顔してる。え、何この罪悪感。すまない、本当にすまない、だがもう私の心のベクトルはザッハトルテに向いているんだ…!!!


「すみま…せん」


いやこちらこそすみません。


「失礼…します…」


よし諦めたか。さて、私は帰ってザッハトルテ食べるぞー


ふわっ


…ん?

んんん?


なんだこの嫌な浮遊感は?


『あれ、君…何してくれちゃってるんだ?』


なんかこのでっかい少年(青年?)に担がれていた。鳩尾に肩食い込んで結構苦しい。


「すみま…せん…」


いやすみませんじゃなくて降ろしてくれればありがたいです。
そんな私の願いも虚しく、少年は私の荷物をもってどんどんと進んでいった。
てかどこに行くんだ。


そしてこんな格好で歩いているから視線が痛い。色んな人が私たちを二度見していく。
やめろ、確かにかなりアレだが見るな。



「なんやあの嬢ちゃん…………

ごっつ脚キレイや」



視線を気にしていた私にまた別の危険が迫っていたなんて知るはずもない。






****



「着き…ました…」


どうやら目的地についたらしい。
ここまで来る間に彼とはなかなか仲良くなった。
彼は樺地くんといい、先輩の命令で私を拉致したらしい。
話によるといつも気がつけばいなくなっている先輩を探しに行くのも樺地くん、何かと先輩の世話をするのも樺地らしい。
なんという先輩だ、樺地くんが気の毒になる。


『テニス…コート…』


そしてその樺地くんの最悪な先輩が誰かがだいたいわかってしまった。




「アーン?遅かったじゃねぇの、瑞城」




『そうかやはりお前か殴らせろアホ部なんのようだ』

「ククっ…元気がいいな。そんなに俺様に会えたことが嬉しいのか?」


『駄目だコイツ早く何とかしないと!』


おめでたい頭しすぎだろ!思わず引いてしまう。


「さっき言っただろ?お前には氷帝テニス部のマネージャーをしてもらうぜ!お前に拒否権はねえ!わかったか?アーン?」



『おい跡部、お前その俺様キャラかっこいいと思っているのか?やめた方がいいぞ。非常に腹立たしいから。』



「言うじゃねえの!気の強い女は好きだぜ?」



『ああああもううっぜええええええええ!!!!』



ドスッ!!!



「いてえええええ!!!!」



とりあえずうざいからやつの泣きボクロを渾身の力で突いた。すっきりした!


「えっ!?跡部ええええ!!?」


今の攻撃で他の部員にも気づかれたらしい。
しまった逃げそびれた!



「ちょ、まっ、おま、女子が跡部に攻撃ええええ!!」

「宍戸さん落ち着いてください!!」


なぜだかめっちゃテンパってる宍戸と呼ばれた人物は銀髪の少年に宥められていた。
ほんと落ち着け。


「クソクソお前すげぇな!!跡部の泣きボクロもぎ取る勢いで突く女子なんて初めて見たぜ!」


そう言ってピョンピョン跳んでるとんでもない前髪V字カット。ちょ、跳ぶな何かうざい!



「…下剋上だ」


………。
スルーしよう。



『……え、』



何かものすごい視線を感じ、発信源の方を見てみると丸眼鏡で前髪長い人が私を見ながらハァハァ言っていた。なんだあれきもちわるっ!!



丸眼鏡は私が見たのに気づいたのか笑顔で…といいよりニヤニヤしながらやって来た。



「俺は忍足侑士言います、よろしゅうなハァハァハァハァ」


きききキモいいいい!!
無理だ、生理的に無理だ!


「自分椎名瑞城ちゃんやろ?知っとるでぇごっつ脚キレイやなハァハァハァハァハァハァ」


『うっ……きもっ…ぅ』


「俺こないキレイな脚初めてm「侑士きめぇ!!」ぐほおおおお」



突然「パァァァアン!!」という音が響いた。
不思議に思いそちらに目を向けると、顔に納豆が叩きつけられている忍足と、何だかやり遂げた感たっぷりの顔をしたV字カットがいた。


「お前大丈夫か!?侑士は脚フェチの変態だからな!気を付けろよ?」


『ありがとう、あの、名前を聞いてもいいか?私は椎名瑞城だ。よろしく。』


「いいって!俺は向日岳人!よろしくなー!!」


なぜだかあのV字カットが素敵に見えてきた。