◎辛い表現があります





今から19年前、狼男と人間の女性との間に、1人の男の子が産まれた。

名はロロノア・ゾロ。
父と母の血を半分ずつ受け継いだ半獣人である。


彼の父親の一族の先祖は、産まれてすぐに狼に噛まれてしまった事で、狼男になったと言い伝えられてきた。

遺伝、というのは本当に恐ろしいものであって、その一族の者には必ず、狼に関連する何らかの異変が起こったのだという。
そんな風にして、狼人間の一族は生まれた。



先人の教えから、人間というものに一線置いていた狼人間達は、人の多い街の方へ行くことをあまり好まなかった。
そのため山奥に集落を作り、一族皆でひっそりと暮らしていたのだそうだ。


とはいえ自分の身体だ、少し意識すれば普通の人間と同じように暮らせる。
満月の夜にだけ気をつければ、何とかやっていけるのではないか。
そう思う者も当然いた、しかし、古くからの掟を破ろうと思う者はいなかった。



時間は19年前よりもっと前に遡る、そんな山奥の集落に、偶然にも迷い込んでしまった人間が1人いた。
後のゾロの母親である。


行き倒れになっていた彼女を、後のゾロの父親である1人の狼男が一族の皆に黙って介抱した。

たとえ先人が恐ろしいものだと称しても、弱った1人の女性を見過ごすことはできなかったのだ。


そこから恋に落ちた2人は、一族の反対を押し切り結婚し、やがて1人の子どもを産んだ。

その子どもこそが冒頭に登場した半獣人の子、ゾロである。


両親からの愛情を一心に受けて育てられたゾロは、すくすくと元気に成長した。

最初は人間ということだけで恐れられ上手く馴染めていなかった母も、優しく真っ直ぐな性格の持ち主で、諦めずに接していたら周りの者も徐々に打ち解けていった。


狼人間達も、父も、母も、ゾロも、皆が幸せに暮らしていた。

狼人間達の人間に対する恐怖心も、彼女と触れ合うことで薄れかけていた。
中には優しい人間もいる、恐ろしいだけが人間ではないんだ。
皆がそう思うようになる。

良い方向へ、全てが進んでいるように見えていた。



だがそんな最中で、悪夢のような出来事が起こってしまったのだ。

今から14年前、ゾロが5歳の時のことだった。






燃え盛る木々、家々。

そこかしこに倒れる仲間たち。

大声を上げ銃を構えるのは、人間。




一族の1人が、山を少し降りた所で、人間に姿を見られてしまったのだ。
満月の夜の事、夜の闇に光る赤い瞳に驚いた人間に、ライトで照らされて呆気なく。


それから、"バケモノが山奥に住んでいるらしい"という噂が近辺にあった人里に広まった。

人喰いだの災いをもたらす悪魔だの、誤った解釈をする人間達。

携えるは銀の弾の籠もった猟銃、災いを恐れた大勢の人間が、集落に乗り込んできたのだ。




くたばれ、バケモノども

人の形をしたバケモノ

バケモノ、バケモノ、バケモノ



心無き人々の声、銃声、パチパチと音を立て無惨にも燃え全てを焼く業火。

当時5歳のゾロには、耐え難い現実だった。

仲間が次々やられていくことに興奮し、怒りと悲しみを爆発させ姿を変える狼人間。

それが人間達の恐怖心を煽り、そこら中から銀の弾が飛び交って。


『止めて下さい、もうこれ以上撃たないで下さい!』

『彼等は何も悪いことをしていないのに、』

『貴方方と同じように、静かに生きていたいだけなのに、』


横たわる父を抱いて、叫び続ける母の姿が映る。

人間は、同じ人間である母にさえ銃口を向けて、悪魔に身を売った裏切り者と罵った。
そして躊躇いも無く、引き金を引いた。


まさに地獄絵図、そんな中からゾロを生かしてくれたのは、残酷にも1人の人間だった。



『こんなのは非道い、あまりにも惨すぎる』

『災いなんて起こったことなどない、根拠もなしにここまで残酷な所業ができるなんて。』

『お前はまだ子どもだ、逃げ切れる、今のうちに遠くへ逃げなさい』

『こんな事ぐらいしかしてやれなくて、本当にすまない。走りなさい。さぁ早く』



ゾロは、何を信じたらいいのか分からなかった。
それでもとりあえず、生きなければならない、本能的にそう思ったのだという。



人間への恐怖、受け入れがたい家族と仲間の死、辛い現実。

全てを5歳のその小さな背中に背負って、ゾロは全力で走ったのだ。





それから、行き場所も生きる術もない、ゾロは途方に暮れた。
きっと騒ぎはおさまっただろうが、もう集落があった場所へは戻れなかった。
戻れば全て、目の当たりにしてしまうから。


ゾロは人間を恨まなかった。
自分の血にも誇りを持っていた。
何も悪くない、皆がそれぞれの信念に基づいて起こった事だと、5歳にして割り切った考え方をしていた。


生きなければ。
そう思うゾロには、人里に降りる他に生きる術はなくて。
はるか遠くの人里で、人間に自分から頭を下げて居候をさせてもらった。
自分の血の事は隠して。


しかし、やはり隠し通すには限界があって。
満月の夜には嫌でもその姿は本来のものに戻ってしまう。

それを見られる度にバケモノだと家を追い払われ、また村を変え、追い払われ。
そんな生活の繰り返しだった。


次第にゾロの人間に対する心は冷めていった。
最初は温かく迎えても、所詮あいつらと同じようにバケモノだと罵って、追い出すに違いない。
凛として真っ直ぐであったゾロの心は、折れてしまう寸前。



だが、生き続けて19年目、サンジという存在に出会う。



ケガを治したら出て行こう、面倒だから追い払われる前に。
そう思っていた。


しかし、サンジの不器用な優しさと温かさと、自分に正直で真っ直ぐで、汚れのない瞳と姿勢に、惹かれた。


羨ましかった、憧れがいつしか女々しくも慕情に変わっていく様を、自分で分かっていながら止めることはできなくて。


サンジを見ていると自分までもキラキラと輝いているようで、苦しいし、でも心地良くて。
今まで出会ったどの人間にも、無いものばかりだった。


嘘偽りのない自分の本当の姿を受け止めてほしい、初めてそう思えた相手が出来た。

そして、今夜に繋がる。



「…、重いだろ。人間が恐くない訳は無いし、勿論嫌いだ」

「でも俺、お前は好きだよ。バカみたいだけど、惚れちまった」

「、悪いな」


フッと儚げに笑って、ゾロは全て言った。
これが青年ゾロの生きた、19年である。


俺の、答えは。


―――――――――――

長いですねー
そしてめちゃくちゃ暗い

書きたいことがありすぎた…


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