◎不思議な世界に迷い込むゾロさん
◎無駄に高校生パロ





「…どこだ、ここは」



慣れた道を、ただいつものように歩いているだけだった。
いつもと少し違ったのは、隣に何かとうるさいぐるぐる眉毛のあいつがいなかったということ。

やたらと木が多い道をざくざくと進んでいたら、目の前に現れたのは一本のトンネル。
怪しげなのは誰でも一目で感じ取ることができるトンネルだが、何だか何かに呼ばれているような気がして。



安易に足を踏み入れてしまったそこは、まるで十数年の人生の"常識"を全て嘲笑われるかのような、不思議な世界だった。




「…?」


見たことのない景色に俺は小首を傾げて、とりあえず歩くことにした。


最初は何もない更地を勘に任せて進んでいた。
が、次第にどうやら街に出ていたようで、道のところどころが街灯によってぽつぽつと頼りない光を放っていた。


まだ夕方にもならない時刻なのに不気味なほど仄暗い空の下を照らすその光は、限りなく奇妙だ。


進むごとに建物が次々と姿を現した。
その建物達は灯りこそ点いているもののひどく古いもので、決して栄えている感じはしない。

古びたネオンや提灯が消え入りそうにチカチカ光っていて、見たことのない文字を暗がりの壁に示している。


「気味が悪いな…、ん?」


思わずしかめた顔をそのままに歩いていると、俺はあるものに気が付いた。

目を凝らしてよく見ると、そこら中に黒いもやもやとしたものが蠢いていることに。

それらが、俺がその存在を認識すると同時にその姿をはっきりと、意図的に現しているようにも見えるのだ。

とても不気味だ。
あれは生き物か何なのか、それすら分からない。


「何、だ…ここ…、ッ!?」


あまりの不気味さに思わず言葉が零れてしまった。
だがいけなかった。
今の蚊の鳴くような声に、辺り全体にいた黒いもやもやが反応し、ゆるゆると此方を向いたのだ。


「うおぁああッ!」



俺はとにかく全力で走った。
方向なんて気にしちゃいなかった、とにかく走った。

振り向いたもやもや達が、何も言わず、ただ来い来いと手招きをしてきたのだ。
中には俺を掴もうとにゅっと手を伸ばしてきている奴もいた。

行ってはいけない、本能的に俺は走り出していた。




ハア、ハアと短い息をその場に座り込んで整える。
もうどれだけ走っただろうか。


入ってきたトンネルからどれだけ離れたところなのかも、もう分からなかった。
帰り道が分からない。
ここがどこか分からない。
あれらが何なのかも分からない。
何にも、分からなかった。


どうしてこんなことになったのだろう。
有り得ない、でも実際存在しているこの地の雰囲気に、自分の存在が飲み込まれてしまいそうで。

らしくないが、誰にも知られず自分が消えてしまう気がして、子どもの頃純粋に感じていた"恐怖"を、久しぶりに身を持って感じた。


念のため、携帯を取り出してみたが、やはり圏外だった。
はぁーっと深いため息を吐いて膝を抱えてうずくまった。

そんな時、携帯にぶら下がっているアヒルのマスコットがふと、俺の目に映る。
これはあのぐるぐる眉毛が、強引に俺の携帯にくくりつけた物だ。

自分の携帯には、マリモのマスコットをつけて嬉しそうにしてたっけ。
何故かひどく懐かしく感じて。



「―…ぐる眉」

携帯を握りしめて自分の額に持っていき、目を閉じて彼の呼び名を呼んだ。
俺が道に迷った時、迎えに来るのはいつも、あいつだから。



「早く、迎えに来いよ…」



ただただそう思い続けた。
すると、こんなことが起こったなんて自分がおかしくなっただけかと思ったが。



『ゾロ、』

『ゾロ、こっちにおいで』

『さあ立って。早く来いよマリモ』


何処からかは分からない。
でも、確かに聞こえるのだ、聞こえるはずのない、あいつの声が。
目頭が熱かった。
姿が、見たいのに。



「ぐる眉!ぐる眉、どこにいんだよ!ここは一体何なんだ!」

『ゾロ、走れ。俺の声が聞こえる方へ、真っ直ぐな』

「分かんねえ、どこだよ!」

『早く、あいつらが来る。ゾロ、信じろ、早く走れ!』

「…眉毛、」


思えば、こんな得体の知れない世界の中で、こんな声を信じてしまうのはそれこそ、危ない行為だったんだ。
でも、ゾロと呼ぶ声の温度が、紛れもなくあのぐる眉の声のものだった。
だから、俺は地を蹴って、また一目散に走り出したのだ。


『ゾロ、おいで。こっちに早く。後ろは絶対、振り返るなよ』

「こっちから声がする、眉毛、ぐる眉の声だ、」

『俺はお前を、助けに来た。マリモ、こっちだぞ、迷うなよ』

「そう言うなら、姿ぐらい、現せよ、アホ眉毛ッ!」



俺はとにかく声がすると思う方向へ、走り続けた。
本当は二回目の全力疾走で、身体はヘトヘトだった。
そう言うとぐる眉に笑われそうだったから、言わなかった。
あの声は正直に言うと、心強かったと思う。


また気が遠くなりそうな距離を走った。
すると、俺の目の前に聳え立つそれは、ここに来るときにくぐった、あのトンネルだった。


「、トンネル…」


『ゾロ、頑張ったな。おいで。俺はこの外にいる。待ってたよ』


俺は飛び込むようにトンネルをくぐった。







「…い、オイ、おいクソマリモ!」


聞き慣れた声にハッと意識を取り戻すと、俺は暖かい腕に包まれていた。

顔をあげると、木漏れ日の逆光に照らされてキラキラと輝く金髪と、ぐるぐる巻かれたへんてこな眉毛が見えた。

探し求めた姿が、そこにはあった。


「あ、れ…?ぐる眉」

「あれ?じゃねえよ全く…、ちょっと目ぇ離した隙にこんな森の奥まで来て、トンネルから飛び出してきたかと思ったらいきなり汗びっしょりで倒れるし、本当迷惑な…」

「トンネル…汗、」


自分の冷えた身体に気が付いて、確信した。
あの出来事は夢ではなかった、やはり現実だったのだ。

ということは、俺は無事にあの不気味な世界から、帰ってこられたのだ。


「ぐる眉、」

「あ?」

「お前、俺のこと、ずっと呼んでたか?」

「はぁ?まぁ、電話は何回もかけたが…お前、握ってたくせに携帯見てねえのか?」


俺の手にまだ握られたままの携帯。
圏外だったのだから繋がるはずのない電話、でも俺とこいつは確かに繋がっていた。
携帯にぶら下がるアヒルを見つめて、俺は口の端を緩めた。


「そうか、お前かぁ」

「何アヒルに話しかけてんだよ。よし、ほら、帰るぞ」


体を離し差し伸べられた手を、今日は恥じらいも文句も無しに握った。

その暖かさに、また微笑んでしまう自分が可笑しかった。


「なぁ、」

「今度は何だ?」

「…さんきゅ」


今日の事は、絶対に忘れない。
トンネルを振り返ることは、しなかった。



―――――――――――

ミルク様に捧げます

なんかこんな感じで良かったんでしょうかあああ
やっちまった感が否めないです…スミマセン…
精一杯例のあの感じを
出そうと頑張ったんですが、撃沈。
そして、長い!!!!
でも本当愛はこもってます、愛だけは無駄に!
此度は相互リンク、誠にありがとうございました◎

ミルク様のみ返品、お持ち帰りフリーです。

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