コックの店で働かせてもらえるようになってから、幾日かが過ぎた。

いきなり押しかけてわざと断れないような言い方をして置いてもらって、申し訳ないと思う反面、仕方ないとも思っている自分がいた。

仕方がない、仕方がないんだ。
俺にはこういった生き方しか──。



「おい、ゾロ?」

「…あ?」


コックの低くて耳に心地よい声が聴こえて、失っていた意識を取り戻す。
どうやら俺は自分でも気付かぬうちに眠ってしまっていたらしい。

テーブルクロスをしわくちゃにして突っ伏して寝ていた俺を見て可笑しそうにコックは笑ったが、その後すぐに真面目な顔をして眉間にぐるぐる眉毛で皺を刻んだ。


「…大丈夫か?」

「何が」

「寝てる間、うなされてたから」


そう言えば嫌な夢を見ていたような気がする。
過去に起こった、忌まわしい出来事の数々が時々夢に出ることがある。


何でもない、と椅子から立ち上がってテーブルクロスの皺を正した。
胸の奥がチクリと痛んだ。
嘘を吐くのは、苦手だし嫌いだ。

言ってしまえれば、きっと楽なんだろう。
でもそうする訳にはいかない。
そうしてしまえばきっと、あいつも今までの奴らの様に。


俺はここに来てだいぶ、欲張りになってしまったらしい。

何時までも居られる訳でないのに、ここで働けることに幸せを覚えたり。
あいつだって他の奴らと同じかもしれないのに、あいつだけは分かってくれるのではないかと淡い期待を抱いたり。
あいつの、コックの笑う顔を、何時までも近くで見られたら。
そう思うようになったり。


無駄な幻想を抱いて、でもそれを消すことができない。
気付いてからではもう遅かった。

よりによって、一番持ってはいけない感情を、俺は持ってしまっていたのだ。


「よし、今日の仕事終わり!お前もお疲れさん」

「…もっと仕事があっていいんだが」

「えー、今でも結構助かってんぜ。これ以上仕事やったら俺暇になっちゃう」

「、お前、俺は恩返しとして仕事してんだ。気遣いもいらねえ。お前が暇になるぐらいでも、本当は足りないんだぞ。何をそんな…」


違うな、これは俺自身が俺に現実を見せるための、自制の言葉。
八つ当たりに過ぎない言葉を浴びせてしまった。
最後まで言いかけて俯くと、コックはうーん、と唸って考えたあとにこう言った。


「恩返し、とかじゃなくてさ。ただ、一緒に過ごしたいから、とかじゃ、ダメなの?」


言い終わってコックは、これはその、とか変な意味じゃなくだな、とかいきなりそわそわし始めた。

俺も、全身の毛が逆立つような高揚感を覚えた。



それから、布団に入ってコックはすぐに眠ってしまった。
もちろん俺は眠れるはずも無く、窓から見える夜空を布団にくるまって眺めた。

そして冷静になって、あぁやっぱり気付かなければ良かった、と後悔した。


俺の願いも虚しく、コックとはもうじき別れることになるだろう。

明日の夜は、満月だ。



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二人はサンジくんが
勢いで買ってしまった
ダブルベッドに二人で寝てます。

次こそ核心に触れられればいいなぁ
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