積もった雪を踏み越えてそいつの元へたどり着いて、立たせようと思ったがどうやら足もふらついているようなので、仕方がないから背負って家の中へ入ることにした。



「うわぁ…、どうしたんだこれ!?」

「イテテ…崖から落ちたんだ」

「崖から!!?あの高さから落ちて、何で生きてんだよお前!!」


ひとまず家に入れて、電気の明るさでようやく気付いたが、こいつは身体中にひどい怪我を負っていた。
着ているダウンジャケットはボロボロで、腕や足は見るからに傷だらけ。
おまけに顔も擦り傷と痣でいっぱいだった。


こいつが落ちたというその崖は、俺の自宅兼レストランをちょっと奥に行った所に聳える絶壁のことだろう。

その高さたるやこの辺の木を何十本切り倒して縦に繋げれば上まで届くか、というような高さで。
あんな所の上から落ちたりなんかしたら、人間ならまず命はないはずなのだが。


この男はそれなのに、擦り傷と打撲傷のみで済んでいる。
一体どういう身体のメカニズムしてんだ。


「とりあえず治療だな。応急処置だけして、後は病院に…」

「病院は嫌だッ!!!」


いきなり大きな声をあげられて驚いたが、すごく必死な顔をしていたから怒れなかった。


「…頼む、傷や痣は寝れば治るから、病院にだけは連れて行かないでほしい。本当に、2日ほどあれば完治する」

「お、おう…2日で完治はしないと思うが分かった。じゃあまずは消毒だ。そのボロボロのダウンとその下の服脱いで座ってな」


俺が救急箱を取りに行ってる間に服を脱いだ彼の身体は、筋肉が引き締まった良い体つきをしていた。
いや、だからって崖から落ちたら助からねえよ。


消毒をして、絆創膏を貼って、包帯を巻いて。
そんな風に処置を施している間に、色んな話が聞けた。


こいつの名前は、ロロノア・ゾロ。
歳は19だそうだ。
崖の上にある小さな町に住んでいたのだというが。

聞けたのはそのぐらいで。
何故病院は嫌なのか、どうして崖から落ちたりしたのか、家族はいるのか。
これらの質問は、全て沈黙で返されてしまい、聞けず終いだ。

でも、これらの質問をしたとき、ゾロは必ず難しい(もしかしたら辛そうな)顔をするから、深く訊くことはしなかった。


「よし、終わりだ」


一般人に出来うる範囲で治療をしてやれば、ゾロは軽く頭を下げて、恩に着る、と言った。
まるで武士のような奴だとかバカな事を思った。


「ところでお前、傷が癒えるまで此処にいるのは構わないが、その…連絡、とか大丈夫なのか?」

「あぁ、実は俺には帰る家がもうないんだ」

「…あァ?」

「ここまでしてもらって、本当に感謝してる。その恩返しと言ってはなんだが、ここで住み込みをさせてほしい。何でもするぞ。」


やられた、そう思った。
ゾロはそう俺に告げて悪そうにニヤっと笑ったのだ。

帰る家もない19歳の若い男をむごくも追い出すなんてことを、俺は絶対出来ない。
海難事故によって何十日かの飢餓に苦しんだトラウマのある俺は、尚更こんな生活感の無さそうな奴をほっぽりだす、なんて。


「…参った」


そう零してゾロの顔を再度じっと見た。
気のせいだと思う。
だけど俺には、ゾロの顔にあった痣が、最早肌の色を取り戻しているように見えたのだ。

いや、気のせいだよな。


─────────

狼男って治癒力高いのか…?
その辺は想像で!

もちろん続きます


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