◎学パロ
あぁー、空が高ぇ。
窓際の席で授業の内容なんて一切聞かずに、ただただ青く澄んだ今日の空を見る。
雲は小さくちぎったようなものが2、3個点々とあるだけで、雀みたいな鳥が気持ちよさそうに空を舞う。
今日の空は清々しく晴れて、いつもより遠くにある気がして。
俺はふと遠い昔に空の上の天国へと旅立った両親と1人の親友を思い出して、アイツらあんな高い所にいるのかと1人しょうもないことを考えていた。
しばらくぼーっとしていると、右隣からくしゃっと丸められた小さな紙切れが飛んできた。
その方向を見ると、紙を投げたくせに知らん顔して黒板を見つめるクラスメートであり幼なじみのサンジがいる。
俺は多少訝しいといった感じでクソ眉毛を横目で見て、投げられたそれを開いてみた。
するとそれには整った字で、こう書いてあった。
『睡眠欲しかないマリモが
急にセンチメンタルか?
惰眠をむさぼれ、いつものように。』
そのメッセージの下には、何やら頭が毬栗みたいにチクチクして目つきの悪い顔が描いてあった。
これは俺の似顔絵だろうか。
こいつ絵心なさすぎだろ。
ムカついたから自分のノートを1ページちぎって、
『うるせえな、クエスチョン眉毛
センチメンタルって何だ』
そう書いてキチンと横にはぐるぐる眉毛をしたアヒルの絵を描いておいた。
俺、なかなか絵が上手いんだな。
アヒルの出来に満足して、くしゃっと同じように丸めて紙を右隣に投げる。
どんな反応をするだろうか、そう思い隣のアホに目を向けると、どういう訳か顔が少し赤かった。
そして紙を開くと、フッと鼻で笑った後にはぁっとため息をついた。
何でため息だ、オイ。
そしてまた小さな紙に何か書き、それをこっちに投げてきた。
何だかおかしいサンジの様子が気になりながらも、投げられた紙を見た。
記されていたのは、
『↓』
これだけ。
なんだこれは、暗号だったのか。
よく分からなくてさっき貰った紙をくるくる回して色んな角度から見てみた。
やはり何も分からない。
隣からくつくつと声を殺した笑い声が聞こえる、クソ。
何とかしてこの暗号を解こうと躍起になっていると、あることに気付いた。
↓、これって上から下を指していて、もしかしたらよくあるパターンの、文頭の頭文字を組み合わせると単語ができるという仕組みなんじゃないか。
おお、そうだ。絶対そうだ。
あぁーそういえば何となく文の書き方がいつもと違って違和感があると思ったんだ。
どれどれ、俺はさっそく一文ずつ文頭の文字を抜き取ってノートに書き起こしてみた。
す・き・だ
…隙だ?鋤だ?須木だ?
…………好きだ?
いやいやいやいや。
何が好きだと言うんだ、女か。女が好きなのか。
ていうか何でそれを今更俺に言うんだ。
突然告げられた暗号に混乱していると、1枚目に描かれた下手くそな似顔絵が目に入った。
そういえばこいつ、絵には自信がないとか言って昔からめったに描かなかったな。
それを何故今描いてきたのか。
そうまでして俺を示したかったのではないだろうか。
だとすると、もしかして、そんなことが。
こいつが好きなものとは、お、俺ということに…。
「あ、アホかぁぁぁ!!」
自分の気持ち悪い妄想に思わず渇を入れてしまった。
突如大声を上げて席を立ち上がる俺に教室内の人間全員が唖然としている。
それもそのはず、暗号解読に気を取られて忘れていたが今は授業中だったのだ。
大口を開けてポカンとしてる俺に、世界史担当のロビンが
「ロロノアくん、後で職員室に」
という冷ややかな言葉を投げかけたと同時にクラス中が笑いの渦に巻き込まれる。
この場にいるのも恥ずかしくなって静かに座ると、隣の俺を悩ませた張本人が顔を真っ赤にして笑っていた。
テメェのせいだ、と口パクで伝えると、また紙が飛んできた。
もう紙はうんざりだと思いながらそれを開くと、
『悩ませて悪かったな
お前が考えてることは
正解だよ。
放課後、話がある。』
再び隣を見ると、顔は真っ赤なままで教科書を必死に見てるフリをしたバカな幼なじみ。
俺の体温まで上がっている気がした。
顔が熱い。
さっきまで笑っていた生徒達も落ち着きを取り戻し、再び授業が再開された。
また俺は上の空で授業に臨んだが、今度は空の高さが原因ではない。
普通こういう場合の"話がある"なんて気持ち悪いもんだが、俺は放課後が待ち遠しくてたまらなかった。
だって俺もほんの幼い時から、こいつを好きだったのだから。
そして分かるのだ、サンジもまた自分と同じだということを。
この授業が終わって、たとえロビンの説教が待ち受けていようとも、今日は人生でそうそうない幸せを噛みしめる日になるだろう。
ゾロはまた高い高い青空を見つめて、そこから見ててくれと、誰に言うでもなくそう呟いた。
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リハビリぃっ!
長ったらしくてごめんなさい。