「くれぐれも俺から離れないでくれよ、せっかくの久々の上陸が迷子捜索なんてあんまりだ。」


ん、と短く返事を返して、ゾロはふらふらと余所見をしながらサンジの後ろについて歩く。

久々の寄港、買うものがたくさんあるからと荷物持ちに抜擢されたゾロは、天性の迷子体質である。
その上目新しい物に関しては子ども並に興味を示すから、目を離すとすぐにはぐれてしまうため、サンジは常に五感を集中させて歩いた。


ところがその甲斐も虚しく、少し、ほんの数秒間屋台を眺めていた、それだけで。
つい先程まで後ろにいたゾロが、いなくなっているのである。

ちっと舌打ちをして、辺りを見回す。
緑色の頭は珍しいのですぐに見つかると思ったが、やはり見つからない。

「ったく、どこ行きやがったんだよあのクソ野郎…」

仕方がないので今まで通って来た道を戻って捜す。
結局あまりに呆気なく、迷子捜索は幕を開けてしまったのである。


いない、いない、いない。
来た道を辿っても森の中に行っても念のためと船に戻ってみても、ゾロの姿は見当たらない。
賞金首である以上、人に聞き回ることもできないし、うーんとサンジは頭をかかえた。

いっそこのまま見つからないで泣き喚けあの迷子、なんて多少黒い事を考えながら歩いていると、酒瓶が描かれた看板が目に入った。
そういえば建物の中、捜してねェや。
己の浅はかさにガクッと肩を落としながらも、その店に入ってみた。


いた、いやがった。しかもカウンターで知らない男に酒注がれてる。
サンジはハア〜っと溜め息を吐いてずんずんとゾロの元へ行き、低い声で一言、オイこらと呼びかけた。

するとゾロは普段あまりないぐらいの笑顔で、

「酒奢ってもらった」

とだけ言って、また見知らぬ男と会話を始めた。
奢られた酒をグイグイ呑んで、談笑している。
その様子を見たら、何だか必死にゾロの姿を捜した自分が馬鹿らしく思えてきて、サンジはそうかと言い酒場を後にした。

たまらなくイライラしながら道を歩いていると、後ろからタタっと走り追いかけてくる足音が聞こえる。
カチャカチャと刀が揺れる音が聞こえたので、ゾロだと瞬時に思った。

「おい、おいテメ、待てよ」

ハ、ハ、と短い息、相当慌てて追いかけてきたようだ。

顔は後ろに向けずに、どうしたんだと声を返した。

「お楽しみのとこ邪魔して悪かったな、もういいのか?優しいクソ野郎が待ってんじゃねえの?」

「、バカか、バカ、このバカ眉毛」

ハアハアと息を整えながら返ってきた返事は、何故かこちらを責めるものしかなかった。
訳が分からない、何故俺がバカ呼ばわりされにゃならんのだ。


「ハァ!?何がバカだこのクソマリモ野郎」

「…お前、結構捜したろ、俺のこと」

あぁ?と間抜けな声を出してしまった。
そりゃそうに決まってるが、それが俺がバカだと呼ばれる理由の何に関係するのか。


「お前に散々捜させた上、知らない男と酒を酌み交わしてたんだぞ、俺は。」

「あ?お、おぉ…」

「何か、言うことねぇのかよ」

そこでようやくゾロの顔を見ると、期待と不安と羞恥の入り混じった、何とも不思議な顔をしていた。
やっと気付いた、こいつ、確信犯だな。

その言い草に少々イラっときたサンジは、ゾロの脳天に踵を落とした。
そしていってェ!と叫ぶゾロの口をうるせぇと呟いて己の唇で塞いだ。

「離れんなっつったろ」

そう言って手をぎゅうっと繋いで今度は絶対離れんなよ、と忠告すると、ゾロは一瞬だけ嬉しそうな顔をして、黙って半歩後をついてきた。


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普段はゾロに甘いサンジくんなので
たまに怒らせようと企む
ゾロのお話でした。

最初は付き合ってない設定のはずだった。
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