突然だが俺、ロロノア・ゾロは感情が顔に出ないタイプである。
嬉しくても悲しくても苛ついても、周りから見れば割合真顔の方が多いらしい。
俺自身は表情豊かに生きているつもりだが、他人から見ると何を考えているかよく分からないことが多々あるのだという。
ただ不思議な奴もいるもんで、まるで読心術でも使えるかのように、そんな俺を誰より理解してる奴がこの船上に1人いる。
昼間は青々として美しく日の光を反射させてキラキラした海も、今は真っ暗な闇の中にすっかり静まり返り夢の中。
この船にも昼間のうちは船員達の楽しそうな騒ぎ声が響くが、今は物音といえば夏の夜には心地良い僅かな潮風の音と緩やかな波音だけ。
すっかり真夜中である。
船番を任されているため、いつもなら眠りについているこの時間に見張り台で1人海を眺める。
いや、間もなく1人ではなくなるな。
こうして不寝番をしていると、夜食と酒を持って奴は必ずやってくる。
ほら、ギシギシとロープの軋む音が近くまで聞こえる。
「よお、ちゃんと起きてるか?」
「うるせぇな、ちゃんと見張ってたよ」
ふぅん感心だね、と大してしてもいないくせにそんな軽口を叩いて、そしてさも当たり前のように狭い見張り台へぴょんと入り込んできた。
「小腹減った頃だろうと思ってさ」
腕に引っ掛けた小さなバスケットを見せてくる。
食べ物が何かは見えないが、酒瓶は確認できた。
こいつはいつも夜食といえばいかにも酒のつまみになるような、いってみればオカズ系な食べ物を持ってくる。
でも今日の俺の舌は、何だか甘い物が食べたい気分だった。
こいつはそれも、もしかしたら分かっていたりするだろうか。
「コック、酒とつまみ寄越せ」
「もーもうちょっと可愛げのある言い方出来ねえの?」
「あぁ、出来ねぇ。今日のつまみは何だ?」
「…今日のつまみはな、コレだ」
手渡されたのは、ひと切れのケーキ。
まさしく先ほどまで俺が考えていた"甘い物"という条件に当てはまっている。
勿論こいつに今日の自分の舌の情勢を事前に伝えた、なんてことはない。
「お前今日、舌が甘い物〜な気分でしょ?」
「、何で分かるんだ」
「えー、分かるよ。お前のことどれだけ見てると思ってんの」
言い終わってからコックはハッとして、慌て始めた。
何かキモいから今のナシ、と言って少し赤みがさした頬を隠そうとくわえていた煙草に手をのばす。
そうか、こいつは俺のことを沢山見ているから俺のことが分かるのか。
でも変だ、もしその理論が成り立つのなら、変だぞ。
「…じゃあ何で俺は、お前のことが分からないんだ」
「え、」
「もっと見ればいいのか?でもこれ以上見続けられるもんなのか。そうしたらもう、ぴっとりとストーカーの様に後をつける他ねぇじゃねぇか」
「ちょ、ちょ、ゾロ、心の声、心の声が、だだ漏れですよ」
コックのその言葉にハッと我に返った。
もしかしたら俺は、何かとんでもなく恥ずかしいことを口にしたような気がする。
横で煙草の煙を思い切り肺に取り込んでしまったらしいコックがゴホゴホと咳き込んでいるのを見ていると、この場にいるのも耐えられなくなったが、こういう場合いなくなる方がもっと気まずい気がするので、ギリギリで、本当にギリギリのラインで踏みとどまる。
「大丈夫かよ」
「うん、もう平気。てか何、あんなこと考えてたの。」
「…悪いかよ」
「いやいや全然、むしろ俺としてはクソ嬉しいことこの上ないよ」
「きっとお前、ポーカーフェイスって奴だろ、お前が分かりづらいだけだ。」
そういうとコックはうーん、と微妙な顔をしてから笑った。
それを見てもやはり、こいつの思考は読めない。
じーっと見つめているとやけに温かみのあるコックの片手が、俺の頬に触れた。
「違うんだよね、俺が分かりづらいんじゃなくて、お前が分かり易すぎるんだよ」
「そんなこと、言われたことねぇ」
「だからずっと見てきた俺限定。他の奴らなんかにゃ負けないぐらい、見てるんだって。」
他の誰より、クソ愛してるから。
コックがそう言うと、俺の心臓がドクリと一度大きく跳ねた。
触れられているところが徐々に熱を持ち始める。
参った、愛されているな、と同時に、愛しいな、と柄にもなくそう思った。
「あ、今多分同じ気持ちだ」
「…本当か?」
「絶対そうだ、ねぇ、今何か俺にしてほしい事あるでしょ」
「お得意の勘で読み取ってはくれないのか?」
「うーん、それでもいいんだけどさ、これは俺、お前の口から聞きたいよ」
そういうもんなのか、と言うとそういうもんだよ、と返ってきた。
隣に腰掛けるコックの体温もまた、上がっているような気がして、気分がいい。
「もう滅多に言わねえぞ」
「うん」
「キスしろ」
「はいはい」
待ってました、と言わんばかりの鮮やかさで唇と唇との距離は無くなった。
もしかしたら俺は最初からこうされたくて、こいつは最初からそのことに気付いていたのだろうか。
何にせよ、こいつには適わない。
そこまで考えたところで、後は次から次へと襲い来る熱に思考回路は犯され、使い物にならなかった。
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甘いいいいいいい
夜中のテンションで
爆弾投下!