「ぅ、わ」


目の前で起こっている大事件。


つい先程、次に目指す島を目前にして海軍の船に囲まれてしまった俺達は、この船の特技、空来バーストを使ってその島まで勢いよく飛んで行こうと思っていた。

まぁ飛ぶとこまでは成功。
その後が問題だ。

多分物にしがみつき遅れたのだと思う。
ゾロが、空中へ放り出されてしまったのだ。


「うぉああぁ!」

「あら、ゾロが飛んでいってしまったわよ」

「え!?ちょ、ちょっとゾロぉー!」

「ぎゃあああゾロぉー!!!!」


チョッパーの叫びがこだまする。
船は尚も前進し続けるので、ゾロとの距離は一気に開いて、ルフィの伸びる腕でも届かなくなってしまった。

船は海を軽々飛び越えて陸地にまで侵入してしまっていて。
海に落ちれば幾分かマシだったのかもしれないが、まぁあのクソ剣士のことだからそんな心配はいらないだろう。

それより、一番の心配はというと。


「おいマリモー!!落ちた所から絶対動くんじゃねぇぞぉー!見つけらんなくなるからー!」


うるせぇ──、と返ってきた言葉も、はるか遠くに聴こえた。



「…参ったわね」

ナミさんが溜め息混じりにそう零した。
船は無事に陸地にだが着地したものの、やはり一番の問題点を考えざるを得なくて。


「落ちたのが頑丈なゾロで良かったけど…。よりによってこの島は密林地帯、あのファンタジスタ迷子を1人にしといたら一生巡り会えないかもしれないわ…」


一生会えないのか!?と涙目でその言葉に反応するチョッパーを後目に、うーんと船員達は頭を抱えた。


「その内会えるだろーっ」

「そうね、ゾロが下手に動き回る前に捜した方がいいのかも」

ルフィとロビンちゃんが極めてのほほんとそんな会話をしていて、ナミさんも気が抜けてしまったのか、それもそうね、といって苦笑した。


「よし、じゃあとりあえず捜索よ!バラバラに捜しに行って、何かあれば船に戻ってくること。フランキーは離陸の準備と船番のために残ってちょうだい」
「スーパー任せろ!」

「相手はあのゾロだからね。決して油断せず、気張っていくわよ!」

「「おう!!」」



かくして、超ド級の迷子野郎ゾロの大捜索が一斉にスタートした。
さて、と俺も遅れを取らぬよう出発しようとしたその時、ロビンちゃんが俺を呼び止めた。


「どうした、ロビンちゃん?」

「ふふ、実はね、本当にもう動き回っているかもしれないのよ。彼。」

「…?」

「この島につく前に、此処のある言い伝えを彼に教えたの」

「言い伝え?」

「ええ、この島にはね─…」


ロビンちゃんに教えてもらった言い伝えは、一見あいつが興味を持たなさそうな内容。
だけど、それを教えた時のゾロの顔は、少年のようにキラキラしていたそうで。

「だから1人になった今、貴方に見つかる前にそれを探そうと、もしかしたら動き出しているんじゃないかって」


そんなことを教えてもらっては、もう一刻も早くゾロに会いたくて。
ロビンちゃんのお声を聞き終わるより早く、俺の身体は既に走り出していた。


「ロビンちゃんありがとう!ゾロも言い伝えのそれも、絶対見つけてきます!」

「幸運を祈っているわ」

手を振り笑顔で見送ってくださったロビンちゃん、本当に素敵な女性だと思った。


さて、何処に行ったものか。

船から落ちたのが今の俺から見てもっと奥の方。
とにかく奥へ走らなければ。
毎回迷子捜索に駆り出されている、いわばゾロ捜しのプロの俺は勘に任せて走ることにした。


「おーい、マリモー!アホ迷子ー!ルフィに次ぐトラブルメイカー!いるなら返事しろ、芝生ヘッドー!」

「殺されてぇのかテメエ!!」


聞き慣れた怒声、紛れもなくゾロのものだ。
生い茂る草木を掻き分けて進んでいけば、その草木に溶け込むように生える萌葱色の髪。
見つけた。


「あー良かった…お前、ずっと此処にいたのか?」

「本当は自力で戻ろうとしたんだがな」


そういえばゾロは、見つけた時からずっと草むらに座り込んでいる。
もしやと思い、こいつ愛用のブーツを両方脱がして足を見てみた。


「ありゃ、派手にやったなぁ」

ゾロの右足首は赤黒くパンパンに腫れ上がっていた。
大方着地の際に片足で着いてしまったとかそんなとこだろう。
骨に異常は多分ないから、そこはこいつの普段の鍛錬の賜物だろう。
こいつじゃなかったら複雑骨折じゃ済まんぞ。「地面に降りた時ぐにゃってなった」

「あーあ…またチョッパーにどやされるぞ、修行は当分出来ねえな」


ケラケラと笑ってやればゾロはムスッとむくれてしまった。
悪い悪いと謝って手を差し伸べると、その手を掴んでぐっと立ち上がった。

肩を支えてやって歩こうと試みたが、痛みがよっぽど激しいのかゾロが微かに呻いたので止めた。
こいつが痛みに呻くのは珍しいことだ。


「ぐっ、」

「まぁそれだけ腫れてりゃ痛ぇわな。しゃーねぇなぁ、ほれ」


俺は屈んで後ろに手を伸ばした、所謂おんぶ体勢に入ったのだ。
だが手をひらひらと振って乗りなさいと促しても、ゾロは渋って乗りたがらなかった。


「いやだ、歩ける」

「お前のペースに合わせて歩いてたら、今夜は野宿だぞ。みんなの飯、誰が作ると思ってんだ?」

「う…」

役職を武器にするのは少々気が引けたが、そうでもしなければこいつは乗らないので。
そうするとようやく観念したのか、のろのろと背中におぶさってきた。


「よいしょっと、ふむ、まぁ想定内だな」

「無理なら下ろしてくれていいぞ」

「いや全然いけるんで、怪我人は黙っててくれますか」

「うわ、うっぜぇ」


他愛ない会話を交わしながら歩いていると、ふと背中にいるゾロが何かに反応して、とんとんと肩を叩いてきた。


「あ、オイ。オイ眉毛。そこ右に曲がれ」

「誰が眉毛だコラ!…右?そっちは船の方角じゃねえぞ」

「いいから曲がってくれ、いや曲がれ眉毛」

「おいおいマリモマン、立場を弁えなさいよ」


可愛くないお願いも素直に聞いて右へ曲がってやれば、ゾロが歩かせろと五月蝿いので下ろして支えながら2人で歩いた。

目の前の木の枝を同時に掻き分けたその瞬間。
俺達の目に強烈な光が飛び込んできた。

「うわっ!」

「っ!」


一度目を伏せて、目がだいぶ慣れてきたので、ゆっくりと瞼を上げると。


「うわぁ…っ!!」


一面に広がっていたのは、シーグリーンに輝く泉だったのだ。
周りの木々の葉の色が反射してそういった色にみせるのか、詳しい事は分からないが、その綺麗といったら、世界中のどんな画材を使っても出せないような美しさで。
ゾロと俺はその場に立ち尽くして暫くの間魅入ってしまった。


「…これが」「え?」

「あ、や、何でも無ぇ」

明らかに焦った感じの態度に、俺はハッとロビンちゃんから教えてもらった言い伝えの件を思い出した。
そっか、ここか。ここだったのか。


「この、泉」

「ん?」

「…お前の色と、俺の色。混じったみたいだな」


ゾロのどこまでも綺麗な深い翡翠と、俺の蒼。
ゾロが俺の蒼をどう思っているかは分からない。
だけどとても穏やかな表情で泉を見るゾロを眺めて、俺はこいつがこの泉を望んでくれていたことを確信した。


「、ゾロ」

「あ?、…ッ」

もうどうしようもなく愛しさが込み上げてきて、たまらず口付けすると、黙ってゾロはそれに応えてくれる。

右足首の痛みにビクッと身体を震わせたゾロを座らせて、ぎゅっと抱きしめた。


「なぁ、あの言い伝え、本当なのかな?」

「な…お前知ってたのか!」

「まぁそんなの無くても俺は離してやらないけどね。でも、2人で見られてさ、嬉しいね」

「…ん、当たり前だ」

偉そうに言う彼の右足を撫でると、くすぐったいと身じろぎされた。
離れた顔にちゅ、ちゅと軽いキスを降らせるとゾロはふっと笑った。
幸せそうな顔で、安心した。
「さぁ戻ろう、早くその足チョッパーに見せなきゃな」

「寝てりゃ治るんだがな…」


いやいやそれはないだろう、と再び船を目指すため、ゾロを背負い泉を後にした。
名残惜しい気もするが、いつまでもいる訳にいかない。
何より、もしあの言い伝えが本当でなくても、そんなことは問題でない。


『この島にはね、住民にも時々しか見られない特別な泉があるそうなの。とても綺麗らしいわ。なんでもその泉を見ることが出来た者は、大切な人と一生を共にできるなんて言い伝えがあるのよ。』


素敵ね、とロビンちゃんが先程言っていた言葉を思い出した。

思えば神すら信じないこの男が、こんな言い伝えを信じて目を輝かせていたなんて。

なんだか可笑しくてフハっと吹き出してしまったら、それを見透かしたようにゾロにチョップをかまされた。



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長くてすみません

たまにこんなの如何ですか!

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