大抵の人間が寝静まる時間帯、サウザンド・サニー号のキッチン。


珍しい、何とも珍しい。
明日は空から和道一文字が降るんじゃないかというぐらい珍しいことに、この男。
普段は50年寝太郎かってくらい寝腐ってるゾロが、起きているのである。


せっせと朝ご飯の仕込みに勤しむ俺の前で
椅子にドカッと座って酒くれ、だの聞いてんのかアホ眉毛、だの散々なことを言ってくれてる。
つくづく可愛げのねぇ奴だ。



「うるせぇな聞こえてるよ。おら、お望み通りくれてやる」


仕込みを終えて、少しのつまみと酒を一瓶テーブルに置いてやる。
相当欲しかったのか、やっとかと呟いてテーブルの上へと手を持ち上げる。


酒とつまみを置いた手を引っ込めようとしたその時。
本来の目的へ伸びていたはずのゾロの手は、俺の腕をがしっと捕まえた。


「おい、何してんだ。酒はこっちだぞ」


「いや…何…お前の指って案外傷だらけだったんだなと思って」



あー、これね。
小さな頃、必死にリンゴの皮むきの練習に励んでいたときに出来た、綺麗に言えば俺の血と汗と努力の結晶。

あの頃はとにかくジジイに認められたくてがむしゃらに皮むきやってたなぁ、とか。
色々話してやったけど、このマリモ野郎は「ふーん」しか言わねぇ。
本当可愛くねぇ奴。



「てか、酒飲まねぇなら片付けちまうぞ」

「あぁ、いらねぇよ」

「はあ?」

「本当は、いらねぇんだ」


本当に訳わかんねぇこの脳みそ筋肉馬鹿。
あれだけ急かしといて今更、酒がいらねぇとか言い出しやがった。
あー、可愛くねぇマリモ。



「じゃあ何でお前起きてきたんだよ。用がない限り、いつもは寝てる時間だろ?」



「…………たまに、たまに俺から近付いても、罰は当たらねえと…思ったんだよ!」


最後は当てつけるように叫んで言われたその台詞。
耳まで真っ赤なコイツの顔。
怒ってんだか照れてんだか、顔はすでに横に逸らされていて。

やばい、可愛い。超可愛い。
たまらなくなって抱き付いたら、殴られた。
何で殴るんだと聞けば、何となくだアホコックと返された。


やっぱ、可愛くねえ!



───────────
サンちゃん何だか鈍すぎるんじゃない…!?
たまに頑張るぞったんが好きです。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -